二人の推測
青柳さんが帰ってから、いつものベンチでムタと合流した。
「ムタ!聞いてたかもしれないけど、収穫があった。青柳さんも、十六年前の銀行強盗事件の捜査を担当していたらしい。送検中、青柳さんが持っていた拳銃を犯人が奪い取って、自殺したんだって。何かで調べたときは、「犯人が所持していた拳銃で自殺」と書いてあった気がしたんだけど……」
「なるほど。表向きは、犯人が所持していたことにして、実際は青柳の拳銃だったってわけか。なぜ、そんなことをしたんだ?みんなのヒーローとあろうものが……」
「そんな、偽装みたいなことってできんの?」
「やろうと思えば、できる。ただ、俺だったら、そんなことは許さないがな。」
ムタは怒っているように見えた。
「ムタの方はどうだ?施設長に何かもらってなかったか?」
俺は一旦、話を逸らした。
「ああ、そうだった。何か妙なことを言っていたぞ。最初はいつも通りだったんだがな、俺の飯を持ってきたときはちょっと機嫌が悪かったみたいだ。全て、あの男のせいだ……とか何とか言っていたな。」
――あの男のせい……?
「青柳さんと会った後か……?やっぱり、あの二人には何かあるんだ……」
今まではぼんやりと、そんな気がする程度だったが、ムタの情報でほぼ確信に変わった。
「そうだな。施設長と青柳の関係は、もう少し調べる必要がありそうだ。」
俺とムタは合意した。
「っと、施設長のことでもう一つ。二件の殺人事件の被害者宅で見つかった謎の暗号、あるだろ?今日、青柳さんが落としちゃってさ。それをたまたま拾い上げた施設長が言ったんだ。「ガブリエル」って。そのあと、見間違えたって言って、去っていったけど。」
「ガブリエル……?あの、大天使の?」
「そう。施設長はあの暗号に心当たりがあるのかもしれない。と俺は睨んでいる。」
「なるほど。じゃあ、そっちはお前に任せることにしよう。」
「わかった。話してくれるかわからないけど、聞いてみようと思う。」
疑いたくはないけれど、十六年前に起こったことについて、施設長は何かを隠している。
俺はそんな気がした。
「それと青柳さんは、大山さんのマンションの下にいた人物について、警察に見つかる前に大山さんの備忘録を処分したかったんじゃないかって推測してるらしい。二十年前から、備忘録を残し続けていると大山さんがテレビで言っていたらしいし、その理由もわかるんだけど、なーんかしっくり来ないんだよな。ムタはどう思う?」
「俺はあの時、お前のリュックの中で死にそうになっていたからな。よくわからん。」
「それもそうか……」
「その人物ってのは、例の女で間違いないのか?」
「……いや、それが、追い詰めた先が港だったから、辺り一面真っ暗だし、車のヘッドライトの灯りしかなくて、女性か男性かもわからなかったんだ。そのあとすぐに撃たれたし……顔を見る余裕もなかったよ。」
「ふむ……それが、十六年前の犯人なのであれば、何が書いてあるかわからない備忘録の存在は怖いはずだ。その推測は間違っていない気がする。ただ、十六年前の犯人は、まだ二人存在している。その二人が共犯である可能性もあるかもしれない。気を付けろ。」
ムタは俺に忠告をした。
確かに、第二の事件が起こってからは暫く何も起こっていない。
何もないことに越したことはないが、このまま終わることはない気がしていた。
何故そう思うのかは、俺自身にもわからない。
大山さんの備忘録に書かれていた、銀行強盗事件の首謀者についても、まだ謎だらけだ。
唯一分かっているのは、「男」であるということ。
後藤さんと大山さんの二件の殺人事件を実行したのは、例の女性で間違いないだろう。
だが、ムタの言う通り、その女性の裏に共犯者が潜んでいる可能性がある。
――その二人がもし、共犯であったとしても、目的が五千万円を独り占めすることならば、きっともう一人、被害者がでるはずだ。
俺とムタは、そう推測していた。




