運命の出会い
「おい、お前たち。」
高校から帰る途中の道で、後方から確かにそう聞こえた。
振り向いても、誰一人としていない。
一緒にいた連れたちは、何も聞こえていないかのように、今日の抜き打ちテストについての話をしながら歩いている。
「聞こえているなら、こっちを見ろ!」
また声が聞こえた。
振り返ったが、やはり誰もいない。
「昨日は海外ドラマを観て徹夜しちゃったし…疲れてるんだな。きっと。」
その時の俺は、ただの空耳で済ました。
その次の日の朝――
俺は、とても急いでいた。
高校までの道のりを必死に走っていた。
なぜなら、「あと三日間遅刻をしたら単位はやらん!」と、教師に言われていたからである。
一応、説明しておくと、俺の高校は都内にある単位制高校だ。
小学校、中学校と、遅刻で怒られる毎日から逃れるために、単位制高校に入学したはずなのに、午前に必修科目があった。
「おい、そこのお前!」
後方から、また声が聞こえた。
これが正にデジャヴというやつだろう……と、俺はちょっとニヤけた。
『デジャヴ』という言葉が、昨日観ていた海外ドラマに、出てきたからである。
「誰だか知らないけどごめん、今急いでるんだ!」
そう言って、走りながら軽く振り向いたが、誰もいない。
走る脚を止め、三百六十度見渡したが、誰もいない。
少しだけ怖くなった俺は、一人呟いた。
「デジャヴだ……」
「違う!デジャブというのは、一度も体験したことがないにも関わら…っと、それはさておき、後ろにいなければ、下を見ろ!」
確かに聞こえる、少し威圧感のある声に従い下を向くと、白黒の模様の猫がちょこんと座っていた。
「お前、やっとこっちを見たな。まったく……手間取らせやがって!」
俺は、幻覚でも見ているのではないかと思い、目をこすってみたが、どう見ても、この猫が喋っている。
「はぁ!?猫が、喋っている!?」
この場にいるのは、俺一人だけ――びっくりして、思わず飛び退いてしまった。
「そんなに怖がることはないだろう!まぁ、いい。今日は忙しそうだ。また話そう。この通路は狭いが、お前の高校までの近道だ。」
そう言って、喋る猫は、狭い通路の方を尻尾で指した後、近くの塀によじ登り、どこかへと去っていった。
「今の、何だったんだ…?」
急いでいたにも関わらず、俺は呆然と立ち尽くしてしまった。
夢かと思い、頬をつねったりもしたが、夢ではなさそうだ。
この時の俺は、何故だかわからないが、この喋る猫に何かの運命を感じざるを得なかった。
これが、俺『颯介』と喋る猫『ムタ』の出会いである。
今日一日、俺は喋る猫のことを考えていた。
「今日もまた、遅刻したそうだな。」
机に突っ伏していた上半身を起こすと、担任の教師である『市川先生』が目の前に立っていた。
「げっ……市川先生……」
俺は咄嗟に口に出してしまった。
先生は『厳しい』ことで有名で、全校生徒、先生を知らない人はいないと言っても過言ではないだろう。
本人に聞いたことはないけれど、歳は恐らく40代だと思う。
「げっ……とは何だ!……で、今日はどうして遅刻したんだ?また、夜更かししたのか?」
先生は、最初は声を荒げたものの、途中で声を落ち着かせて俺に尋ねた。
「すんません……今日は間に合うはずだったんです。でも、いきなり猫に話しかけられて。」
「何言ってるんだ?教師をからかって、楽しいか…?」
先生は、すごい形相で俺を見ていた。
「いや!違うんです……!いや、違くないんですけど!すんません!」
俺はそう言って、急いで立ち上がり、そのまま走って学校を出た。
一人残された先生は、きっと呆れているに違いない。
「あいつ、なんだか様子がおかしかったな。一応、報告しておくか…」




