ヒーローとは
施設長から十六年前の話を聞いた後、俺はムタと会っていた。
「そう言えば、お前にはまだ言ってなかったな。」
ムタが誇らしげに俺に言った。
「何だ?」
「また、例の夢を見たんだ。続きというか、また少し違う夢。」
「お。それで?何かわかったことはあったのか?」
「聞いて驚け……!!俺はみんなのヒーローだったらしい!!」
「……は?」
「だーかーらー!!俺は、みんなのヒーロー!!」
「ん?ヒーローって何だよ?ちょっと、抽象的すぎないか?」
俺は思ったことを、ストレートに言ってしまった。
すると、さっきまでの威勢はどこへやら、ムタはしょぼんとしてしまった。
「……まあな。そうだよな。肝心な部分が、やっぱりまだわからん。」
俺は少し、申し訳ない気持ちになった。
「他にわかったことはあるのか?」
「俺の妻と思われる女性が妊娠していた。確か、男の子だと言っていたな。名前も言っていたのだが、上手く聞こえなくてな。息子の名前が何かの手掛かりになりそうな気もするのだが。」
「確かに、息子の名前がわかれば、自分のことも何か分かるかもしれないな。」
「それと……前は言わなかったんだがな。この夢には続きがあるんだ。例の十六年前の銀行強盗事件らしき現場の夢――」
俺は思わず、ハッとした――聞いておかなければならないような気がした。
「それは、どんな夢だったんだ!?」
「妊婦の女性が倒れていたんだ。その傍らに、銃で撃たれたと思われる男性の遺体もあった。だが、妊婦の女性は気絶していただけで、救急車で運ばれていった。」
「妊婦の女性と撃たれた男性って……大山さんの備忘録に書いてあったことと同じだ。」
「ああ、間違いない。」
……ということは、もしかして――俺は言おうかどうか、少し迷った。
「ムタの夢に出てきたってことは……その妊婦の女性って……」
「……ああ、俺も同じことを考えていた。今もどこかで、お腹にいた子供と一緒に、暮らしているのかね……」
ムタはそう言って、空を仰ぎ見ている。
「なぁ、颯介。お前にとってのヒーローって何だ?」
「うーん。よくわかんねぇけど、俺はこの国を守ってる警察――刑事さんとかが、ヒーローって呼ばれるべきなんじゃないかと思うよ。」
「はは、正義感の強い、お前らしい回答だな。」
ムタはそう言って笑った。
ムタの夢の話を聞いた後、俺の話も聞いてもらった。
「ほぉ。お前が十六年前に病院で誘拐された乳児だったと……だが、なぜお前だったんだろうな?お前でなければならない理由でもあったのか……?」
「そんなの、俺が聞きたいよ!」
「まぁ、そう焦ることもないだろうよ。この事件を追っていればいずれ分かるはずだ。俺の勘がそう言っているからな。」
「奇遇だな。俺もそう思ってる!」
俺とムタは、自分たちも気づかないうちに、お互いを信用する仲になっていた。




