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満月の夜に猫は微笑む  作者: 涼木あきこ
16/54

哀憐

 青柳さんから連絡があった後――

俺は昨日の施設長の様子が少しおかしかったことを思い出し、施設長が自室から出てくるのを待った。

「ガチャッ」

扉が開く音が聞こえると同時に、俺は施設長に話しかけた。

「施設長!十六年前のこと……聞かせてくれないか。」

施設長は、少し困った顔をしていた。

「今更、十六年前のことなんて聞いて、どうするんだい?」

何か隠していること、言いたくないことがあるのだろうと俺は思った。

「俺だって、もう子供じゃない。高校生になったんだ。それに、俺は弱くない。」

話してくれるまで、施設長を離さないつもりで食い下がる。

「そうか。……わかった。当時のことを話すよ。いつかは話さなければならない日が来ると、思っていたからね。」

そう言って、施設長は俺を自室へと招き入れた。


 気持ちを落ち着かせるためだろうか、院長は温かい紅茶を入れてくれた。

施設長の部屋には、ロッキングチェアが二つある。

そこに俺たちはそれぞれ腰を掛けた。

昔、よくここで推理小説を読んでいたっけ――

ロッキングチェアを揺らしながら、昔のことを思い出していると、施設長が語り始めた。

「十六年前の銀行強盗事件で、銀行員一人と男性客一人が殺されたのは知ってるね?亡くなった銀行員が、幸人の父親であるということも。」

俺は、声を出さずに頷いた。

「颯介、今から言うことは、まだ美紗には言わないでほしい。いいね?」

「別にいいけど、なんで?」

「十六年前の銀行強盗事件で亡くなった男性客、実は美紗の父親なんだ。」

「――え?」

俺は思ってもみなかった展開に、凍り付いた。

「そして、そのショックで美紗の母親は育児放棄をして、この児童養護施設に美紗を預けに来た。」

俺は思い出していた。

あの時、美紗が言った言葉を――

「妊婦さんを守って亡くなった人……この人にも、幸人のお父さんみたいに家族がいたのかもしれないと思うと、胸が苦しいわ。」

「まさか……美紗の父親だったなんて……」

「美紗は今まで、自分の両親のことを私に聞いてきたことは一度もなかった。なのに、昨日突然、帰ってきてから聞きに来たんだよ。私の両親のこと、知ってる?って……」

「……施設長は、何て答えた?」

「知りたいのかい?と答えたよ。そうしたら、まだ知らなくていいと言って、自室に入っていったよ。」

「そっか……」

俺は驚いた。

幸人と美紗の父親が、同じ事件で亡くなっていたということ、そして、同じこの児童養護施設にいるということに。

十六年前の銀行強盗事件さえ起こらなければ、きっと幸人も美紗も、本当の家族に囲まれて、今以上に幸せに暮らしていたかもしれない。

そう思うと、とても胸が苦しくなった。

「颯介が聞きたかったことは……いや、違うね。今の美紗の話だけでは、足りないよね?」

「ああ、俺のことも教えてほしい。」

「今まで、自分の両親のことなんて全く気にしてなかった二人から急に聞かれるものだから、私も心の準備ができてなかったよ。」

「ははっ、ごめん。」

俺は平然を装うためにも、笑って言った。

そして、どんな言葉を聞いても驚かないと覚悟を決めて、ゴクリと息をのんだ。


 「――十六年前の銀行強盗事件の数週間後に、病院で乳児が誘拐される事件が起こってね。それを追っていた刑事さんが、犯人に指定された倉庫に行ったところ、爆弾が爆破して亡くなったらしいんだよ。でも、その現場からは乳児も刑事さんの遺体も犯人も、何も見つからなかったらしい。その数日後、この児童養護施設の前に君が現れた。『颯介』という名前と共に。」

俺は、想像の斜め上をいく話に、少し動揺した。

「待って……それってつまり、俺はその誘拐された乳児ってこと……?」

「……そういうことになるね。」

「どうして……!そのときに届け出なかったんだよ!何かの手掛かりになったかもしれないのに!」

俺はつい、声を荒げてしまった。

「もちろん、届け出たさ。当時の状況や、赤ちゃんが身に着けていたものも全て提出した。でも、何も進展はなかったそうだ。その後に、君の母親は出産時に亡くなっていて、父親も間もなく亡くなってしまったと聞いてね。うちで引き取ることになったんだよ。」

「ごめん、そうだったのか……なるほど、俺の両親は、もうとっくにこの世からいなくなってたんだな。」

少しだけ、胸が締め付けられるような気がした。

これが「寂しい」という感情なのだろうか――

「……気を落としたかい?

「まあ、少しは。でも、知ることができてよかったよ。俺は今まで、ありがたいことに寂しいと思ったことはないんだ。それも、施設長たちのお蔭だよ。」

「嬉しいことを言ってくれるじゃないか。」

施設長たちには、もっと感謝しないとな――今度、慰安旅行でも計画するか、なんて、俺は考えていた。


 顔には出さなかったけれど、俺が十六年前に誘拐された乳児であったということには驚いた。

以前、十六年前の銀行強盗事件を調べていたときに、たまたま記事で読んだことがあったからだ。

その記事には、倉庫の焼け跡からは誰の遺体も見つからなかったと書いてあった。

俺がこうして生きているということは、犯人はともかく――亡くなったとされている刑事さんも、どこかで生きているのではないか?

そう考えてしまう自分がいた。

それと同時に、疑問も出てきた。

犯人が、俺をさらった目的は何だったんだ――?

刑事さんが犯人を追って倉庫に行ったということは、脅迫状とか、その類の何かが届いたのだろう。

その刑事さんをおびき寄せることが目的だったのかもしれない。

ということは、俺とその刑事さんには何らかの関係があるのか――さすがに、考えすぎだろうか。

それと、もう一つ。

この児童養護施設に俺を置いていったのは、誰なのだろう――?

俺をさらった犯人、と考えるのが普通だろうか?

わからないことだらけだ。

ただ、この連続殺人事件を追っていれば、十六年前に起こった二つの事件の真相も、見えてくる気がする。

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