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満月の夜に猫は微笑む  作者: 涼木あきこ
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追跡

 家宅捜索を終え、俺たちは再び、ガラス張りのエレベーターに乗った。

外には青柳さんの車の他に、もう一台、車が止まっているのが見えた。

「さっきは、止まってなかったよな。」

俺は目を細めた。

「そうだね。確かに、さっきまではなかった。」

青柳さんが俺の言葉に反応した。

「誰かを待ってるだけじゃないですか?別に、気にすることないと思いますけど。」

溝端刑事は、興味なさそうに言った。

俺たちがマンションの外に出ると、止まっていた車が急に、勢いよく走り出した。

「やっぱり怪しい!」

俺は気が付いたら、走って車を追いかけていた。

もちろん、車に追いつけるわけがないことはわかっている。

カーナンバーを覚えるためだ。

そしてすかさず、カーナンバーを青柳さんに伝える。

「だいぶ暗くなってきたけど……君たち、これからどうする?」

「もちろん、追いかける!」

青柳さんの問いかけに、俺と幸人と美紗は同時に返答し、急いで車に乗った。


 「いくよ!シートベルトをちゃんとして、しっかり掴まっててね!」

青柳さんはそう言って、思いっきりアクセルを踏んだ。

俺はびっくりした。

いつも温厚な青柳さんに、こんな運転ができるのかと――

遠心力に振り回され続け、俺は吐きそうになっていた。

左右を見ると、幸人と美紗もどうやら同じ状況らしい。

サイドミラーに映る溝端刑事だけは、いつものことだとでも言うように、平然と助手席に座っていた。

「ギャ!!」

ムタがリュックの中で悲鳴を上げたが、それを気にする者はいなかった。

青柳さんの荒れ狂う獅子のような運転は暫く続き、もう限界――と思った矢先のこと。

青柳さんの車が、逃走した車を都内の港に追い詰めた。

もう既に陽は落ちており、車のヘッドライトの灯りだけが頼りだった。

追跡していた車から、人が出てくるのが見えた。

俺はその顔を拝んでやろうと思ったが、何かがキラリと光るのが見えるだけ、他は暗くて何も見えない。

必死になって、暗闇に目を慣らそうとしたが、青柳さんの声に制された。

「みんな、伏せて!」

そして、銃声が響く――

「パアンッパアンッ」

「バリンッ」

青柳さんの車のフロントガラスが割れた。

狭い車の中で、俺たちは身を寄せ合っていた。

「バシャン」

微かに聞こえた、水に何かが落ちる音――


 「もう大丈夫。」

青柳さんの優しい声が車中に響いた。

「もしかして、海に飛び込んで逃げたのか!?ってことは、やっぱり今のが、今回の連続殺人の犯人?」

俺は聞いた。

「うん。あの女性で間違いない。」

真面目に答える青柳さんの言葉に、俺は息をのんだ。


 遠くまで来てしまった俺たちは、青柳さんの車で児童養護施設まで送ってもらった。

「君たち、気を付けるんだよ。何かあったらすぐに、俺に連絡して。」

そう言い残して、青柳さんと溝端刑事は去っていった。

――何か引っかかる。

俺はさっきまでの出来事のどこかに違和感を感じている。

だが、はっきりしない――

「颯介、先に中に入ってるからね。あの運転はもう懲り懲りだよ……」

「そうね……私、何度も走馬燈が見えたわ。生きててよかった。」

幸人と美紗は相当、体力を消耗しているようだった。


 俺は幸人と美紗が玄関に入っていくのを見て、長い間リュックに入ったままだったムタの安否を確認した。

「お前!俺を殺す気か……!」

ものすごい殺気を放つムタが、のそのそとリュックから出てくる。

「それは俺じゃなくて、青柳さんに言ってくれよ。」

「青柳って、あのへらへらした警部のことか!」

死ぬかと思ったと言いながら、ムタは毛づくろいを始めた。

「そういえば、お前の友達が持ってきたノートには、何が書かれていた?」

ムタが俺に尋ねた。

俺は、大山さんの備忘録と、そこに書かれていた内容についてを事細かにムタに話した。

「なるほど……今回の連続殺人も、十六年前のその女が絡んでる可能性が高いな。隠された五千万円を独り占めするためといったところか。あるいは、怨恨による復讐という線もあるな。」

ムタも、俺や青柳さんと同じ考えのようだ。

「また来るからな。」

そう言って、ムタはいつものように去っていった。


 ムタと別れたあと、自室に戻る手前で、施設長が心配そうに声をかけてきた。

「颯介、今日も遅かったね。今日も、幸人と美紗と一緒だったのかい?」

「うん。実はある事件に巻き込まれちゃって。全部、俺のせいなんだ。心配かけてごめん。」

「……事件、か。颯介が謝ることじゃないよ。幸人も美紗も、颯介を思ってる。もちろん、私も。」

「施設長ありがとう。ねえ、施設長?施設長は十六年前の事件のこと、知ってる?」

施設長の顔が明らかに曇った。

「……ああ、もちろんさ。とても悲惨な事件だったからね。」

「嫌なことを思い出させちゃってごめん。十六年前って、俺らが生まれた年かぁ――」

そう言った俺に、施設長が複雑な顔を向けていたのを俺は見逃さなかった。

「あのさ、施設長……」

その理由を聞こうとしたとき、施設長は言葉を遮った。

「今日は疲れているだろうから、早く寝るといいよ。おやすみ、颯介。」

そう言って、施設長は俺の部屋のドアを開け、俺の背中を軽く押して部屋の中に入れると、静かにドアを閉めた。


 「施設長、美紗ちゃんは……颯介くんと幸人くんは、大丈夫そうでしたか?」

「少し、嫌な予感がしているよ。」

「そうですか。私に、何かできることがあれば、いつでも仰ってくださいね。」


 次の日、青柳さんから昨日の件で連絡があった。

港に置き去りにされた車は盗難車であり、指紋や髪の毛などは、元の所持者のものしか見つからなかったそうだ。

用意周到なやつだと、俺は思わず感心してしまった。

そもそも、なぜ、あのマンションの下にいたのだろう?

俺たちが大山さんのマンションに来ることを知っていたのだろうか――?

第一に、大山さんを撃って殺した本人が、大山さんのマンションの下にいたのは何故なんだ――?

考えれば考えるほど、わからなくなっていった。

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