記憶の断片その二
颯介と別れたムタは、路地裏のいつもの室外機の上で一人考え事をしていた。
「今日もまた、妙な事件に巻き込まれたな……」
と思いつつも、収穫はあったとムタの気持ちは浮ついていた。
あの夢に出てきた女性は、自分の恋人であり、自分は元々は人間だったのだろう。
ムタはそう推測していた。
だが、この前見た夢を、全て覚えているわけではない。
自分が人間であったというのも、絶対にそうであったという確信はない。
あの女性は、自分の飼い主であったという可能性だってある。
「何か、証拠がほしいところだな。」
ムタはそう思いながら、眠りについた。
――ここは一体?
こちらを見て、笑っている女性。
「ねえ、ハネムーンはどこに行く?私は海が見えるところがいいなぁ。でも、あなたの職場からは、あまり離れない方がいいわよね。近場にしましょ。だって、あなたはみんなのヒーローなのだから。」
彼女の左手の薬指に、キラリと光る指輪が見えた。
ハネムーン――新婚旅行の計画だろうか。
ヒーロー?
何のことなのだろう?
場面は変わって、先程と同じ女性がこちらを見て微笑んでいる。
オーシャンビューのホテルだろうか。
一面に広がる海に夕日が反射し、キラキラと宝石のように光っている。
「見て、海が光ってる。」
そう言った女性の笑顔もまた、キラキラと輝いて見えた。
――なんて美しい人なんだろう。
また場面は変わって、先程の女性が優しく微笑んでいる。
よくよく見ると、女性のお腹が、以前見たときよりも大きくなっていた。
「聞いて!男の子だって。名前、前からいくつか考えていたけれど、あなたのように――颯爽と、たくさんの人を助けられる子になりますようにって考えたの……というのはどうかしら?」
――何だろう?
肝心の子供の名前だけが、聞こえてこない。
そして、人だかりができている場所――
テレビや雑誌、マスコミの取材陣だろうか、フラッシュを焚いて撮影をしている。
それを掻き分けて行った先は、銀行強盗事件が起こった現場と思われる場所であった。
一人の女性が倒れこんでいる。
その近くで男性が一人、酷く血を流し、倒れている。
そこにいる他の人々は、恐怖に肩を震わせていた。
倒れこんでいる女性に駆けよった。
身体が震えているわけでも、苦しそうにしているわけでもない。
死んでもいない……恐らく、気絶しているだけだろう。
女性は妊娠していたようだ。
念のためと、そのまま救急車で運ばれていった。
――胸騒ぎがした。
ムタはハッと飛び起きた。
呼吸がとても荒くなっており、苦しかった。
また、夢を見ていた――
今回は、はっきりと顔が見えた。
あの女性はやはり恋人で、俺と結婚していたのだろうか?
あの女性は俺を、『みんなのヒーロー』と言っていた気がする。
ヒーロー?
どういう意味だ……?
男の子を妊娠していて、子供の名前も決めたと言っていたが、そこだけ何故か聞き取れなかった。
子供の名前も、俺の記憶と何か関係があるのだろうか?
ダメだ……これ以上は思い出せない。
ムタは悶々としていた。
「そうか、今日もあいつに会うんだったな。」
早くなっていた鼓動が、落ち着きを取り戻していくのがわかった。
いつの間にか、ムタにとって颯介は大切な存在になっていたようだ。




