ダイイングメッセージ
何が起こったのかを理解するのに時間はかからなかった。
観客たちは、悲鳴を上げながら逃げていく。
俺は、逃げていく観客の波に逆らって、撃たれたギタリストに駆け寄った。
そして脈を確認し、すぐに警察を呼んだ。
救急車は必要なかった――もう既に、亡くなっていたから。
倒れこんだギタリストは、撃たれた後も少しだけ息をしていたようだ。
自分の血で、何かを書こうとした形跡がある。
世にいう、ダイイングメッセージというやつだ。
『13 , 1 , 19 , 11』
書かれていたのは、四つの数字だった。
俺はいくつか、パターンを考えてみることにした。
「数列か…?いや、違う。」
「それとも、素数?ダメだ、『1』がある。これも違うな。」
「颯介!!」
幸人の声でハッとした。
目の前で起きた事件に夢中になっていて、幸人と美紗が一緒であったことを忘れてしまっていた。
覗いてみようなんて言わなければ――俺のせいで、二人を事件に巻き込んでしまったという後悔が押し寄せた。
幸人も美紗も、少し震えている気がする。
無理もない、殺人現場を目の当たりにしたのだから。
「ごめん、俺がステージを覗いてみようなんて言わなければ……」
「何それ。僕たちがこんなことで病むとでも思ってるわけ?」
「そうね。颯介、私たちは、あなたが思っているより強いと思うわ。」
そうだ――俺は、この二人の強さを、とうに知っていたはずだ。
長い間、ずっと一緒に過ごしてきたんだから。
俺は心強い、恵まれた仲間がいるということを再認識した。
「何かあったら、僕たちにもちゃんと言ってね。前にも言ったけど、颯介はすぐ、一人で抱え込もうとするから。」
幸人はそう言って、微笑んだ。
俺は、警察が来るまで残ると言って、幸人と美紗には先に帰ってもらった。
リュックから出せと、ムタが背後で、もぞもぞと動いている。
リュックを開けると、ムタがのそのそと出てきて、大きく背伸びをした
「あーっ!空気が美味い!というかお前、俺がいること忘れてただろ!観覧車乗ったり、ステージなんか見て!」
「ごめん、忘れてた訳じゃないんだけどさ、いろいろあったんだよ。」
「そのようだな。また事件なのか?」
「うん。また、だよ。今回は、遠くから誰かが撃ったみたい。」
「そういや、さっきなんか言ってなかったか?数列だの素数だのって。」
ムタが俺に聞いた。
「そうだった!ダイイングメッセージ!」
ムタに、先ほど撮影しておいたダイイングメッセージと思われる四つの数字を見せた。
「ふふん……俺には解けたぞ。」
ムタは自慢げに言った。
それから、俺は十分ほど考えたが、解けなかった。
悔しいと思いつつも、ムタにヒントを求めた。
「お前は考えすぎだ。数列とか素数とか、そんな難しいものではない。数字をあるものに置き換えるだけだ。これで、お前もわかったんじゃないか?」
――数字をあるものに置き換える?
置き換えられるものと言われて、パッと思いつくのは――アルファベット。
この数字が、アルファベットの順番を表しているのだとしたら、『13はM』『1はA』『19はS』『11はK』になる。
「そうか!この人は、MASKって書きたかったんだ。MASKは日本語で仮面。ということは、今回も仮面の女が犯人の可能性が高い。そういうことで合ってるか?」
「その通り!」
ムタのヒントのおかげで、ダイイングメッセージの意味は分かったが、一つ気になることが残った。
「でも、おかしくないか?数字で書くより、そのまま『MASK』とか平仮名で『かめん』って書いた方が早い気がするんだけど。」
「そうだな。でも、被害者は書きやすい方ではなく、あえて数字で表した。何故だと思う?」
「ダイイングメッセージをすぐに解読されたくなかった、とか?」
「ああ、そうと考えるのが自然じゃないか。」
それから数分後、青柳さんと溝端刑事がやってきた。
ムタは逃げるように、自ら進んでリュックの中に入った。
そんなに苦手なのかと、溝端刑事を少し不憫に思ってしまった。
「まぁたお前がいるのかよ!」
溝端刑事は俺を見てそう言った。
「悪かったな!今回はたまたまだよ!」
「颯介、そのときの状況を教えてくれるね?」
青柳さんが、俺と溝端刑事の間に割り込んで言った。
溝端刑事のムスッとした顔を見るのは、これで何度目だろうか。
「亡くなったこのギタリストが大サビで盛り上げて、ギターの音がフェードアウトしていく最中に銃声が聞こえたんだ。観客たちもステージに釘付けだったし、銃声がした後は大パニックで、誰が撃ったのかなんて誰も見てなかったと思う。でも、この人は見えてたんじゃないかな。見てよ、このダイイングメッセージ。」
「うん、なるほどね。MASK…つまり、仮面ってことだね。」
青柳さんも、俺が答えを言う前にあっさり解いてしまった。
「ねえ、青柳さん……やっぱり今回も、前回と同じ仮面の女の仕業なのかな?」
俺は聞いた。
「うん。今回の凶器も銃ときてる。警察はその線で捜査することになると思うよ。」
亡くなったギタリストの本名は『大山岩男』。
名前通りの大柄な男性である。
大柄で、しかもモヒカンというのは、かなりの威圧感がある。
ミュージシャンとしては『STONEMAN』と名乗っていたらしい。
年齢は四十五歳。
大山さんも、十六年前の銀行強盗事件に関わっていたのだろうか――?
なんて考えていたとき、青柳さんがこちらを見ていることに気が付いた。
「じゃあ颯介、明日も家宅捜索に行くから。前みたいに、場所は後で連絡するよ。それじゃあね。」
そう言って、青柳さんは車に乗り込み、溝端刑事とともに去っていった。
「ふんっ!また俺の出番だな!!」
背中から、張り切るムタの声が聞こえた。




