おじさん、船上のクライマックス
俺は加速し、船長を撹乱しようと試みる。さっきまでの俺より格段に速くなってるんだ。相手がこちらの動き慣れるまでの、少しの間で決着をつける。そのために、武器と魔法を組み合わせて、とにかく攻める! 急げよ俺!
「——こいつ! 速い!」
「それでも簡単には決めさせてくれない辺り、やっぱ強いよ。あんた」
魔法で水の大砲を船のあちこちに出現させ、四方八方から船長を攻撃する。その全てに対応するのは難しいだろう。船長は攻撃全てを回避しきれず被弾した。相手にはこれまでのダメージも入っているんだ。この調子でいけるぞ! もうひと頑張りだ!
「その、首! もらった!」
「なめるな!」
俺から、船長の首を狙った鋭い一撃! 対して船長は大きな口を開け、凍てつくような息を吐いてきた。ドラゴンブレスってやつか? だが、こっちは止まってやんねえ!
気温を調整する魔法の応用だ。俺は自身の温度を魔法で上げる。氷のブレスだろうが、なんだろうが耐えてみせるぞ。
「くらえぇ!」
そして、一閃! 俺の刀が船長の首を撥ね飛ばした。辺りに勢いよく温かな血が吹き出し、これで決着。良い戦いだったぜ。なんて思っていたのだが。信じられないことが起きた!
「……!」
頭部を失った船長の体が、それでもなお俺に襲いかかってきたのだ。一部の生き物は、頭を失っても体だけでも動いてくることがある。こいつはそういうやつだってことか?
「——貴様! よくも俺の首を撥ねやがって! だがなあ。俺の魔力全てを残った肉体を動けるようにしてやった。貴様ら全員、道連れにしてやる。先に……あの世で……待ってるぜ……」
怖! 船上に転がってた船長の首が、最後の言葉を残していった。しかし、魔法で自分の体に干渉することも可能とは……いや、それは俺もやっていたか。魔法で体温を上げていたからな。ん……もしかして?
気になることは試してみよう。イメージするのは身体強化された自分。そして、動く! 俺は更に加速し、首無し船長に接近する。良い感じだ! これまでで一番体が軽い!
「身体強化の魔法を会得したぞ!」
分かりやすく髪の毛が金髪になったりしないのは残念だがな。そして、俺と首なし船長との最後の、近接戦闘が始まる。
「死体には、負けられねえ!」
首なし船長は、凄まじい速さで動いてくる。だが、俺も負けてない。一進一退の攻防。相手が魔法で動いているなら、魔力切れを狙うべきか? ただ、魔力だけでいつまでこの体が動くかは未知数なんだよな。どうするべか?
「——ヨータさん! 敵の心臓を狙いなさい! ニュート船長の魔力はそこに集まっていますぞ!」
離れた位置から、リッチ先生の声が届く。心臓か。なるほど。信じるからな先生!
「分かった! こいつの相手は最後まで任せておけ!」
言いきったからには、かっこいいところを見せなければ! 俺は今まで以上に集中し、首なし船長と戦う。狙うは心臓。そのための最適な動きを想像する。
メグ師匠との稽古で、様々な攻防の型を学んできた。今、俺がどう動くべきか。相手の動きに合わせ選択していく。幸いというべきか、首を失った船長の動きは乱暴なものになっていて、先を読みやすい。頭を失えば、彼の剣技も鈍るか。なら、心臓を突くことはできると思うぜ!
ラストスパート! 自信を持って、慢心はせず、敵の心臓を刀で突くために動く。刀とサーベルが打ち合い、何度もの攻防の末——遂に俺の刀が敵の胸を突いた!
血とは違う。魔力の光のようなものが、相手の体から溢れ出る。爆発でもするのかと思い焦ったが、それはまばゆく光るだけだった。今度こそ……決着だな。
俺は船上に転がる船長の頭を見た。すでにその目から光は失われ、それが物言わぬ亡骸であることを示している。あんたとの戦いは楽しかったぜ。
「……ヨータ様。魔王サン・リバイア。大幅に弱体化していきます。もうすぐ海上に落ちるようです」
「海賊船団のボスを倒したからな。こっちの予想は正しかったみたいだ」
「海賊船団を襲うのはもう充分でしょう。すぐに皆さんをこちらへ転移させます。よろしいですね?」
「ああ、そうしてくれ」
アイの転送が始まるまでわずかな時間で、周囲の様子を確認する。この船上での戦いはすでに決着がついていた。船長以外のドラゴニュートはルリカさんたちによって倒されていたみたいだね。
皆ヘトヘトっぽいので休んでもらいたい。お疲れ様。後は任せてくれ。サン・リバイアは時空戦艦で倒してみせる!
心配だった時空戦艦の方も、アイがなんとかもたせてくれていた。今も、ボロボロになりながらも、船は空にある。アイにはほんと感謝だな。
初めは、海賊船団からの援護を潰すために、船団を襲撃したが、結果的には魔王の力を削ぐことに繋がった。後は、魔王サン・リバイアを倒すのみ。もう少しだけ頑張っちゃうぞ。
なんて、考えているうちに時空戦艦への転移が始まった。船上のクライマックスは終わり、今度は時空戦艦と魔王との決戦だ。
海底ダンジョンの大決戦。最後まで気は抜けないぞ!




