おじさんVS流氷の天使
海底ダンジョン第三層を進むことしばらく。試しに上へ向かってみると、厚い氷が存在した。頑張れば破壊できなくもない……か? そこまでする必要はないかもしれないが。
海の中で、氷の天井があるというのは、なんだか不思議な感覚だ。この上にも魔物が生息していたりするのだろうか? やはり、この天井を壊すのはやめておこう。外に出て魔物だらけだったりすると、今は少し面倒だもんね。
寒さは問題無い。ヒーターの変わりに魔法で対応できてるもんね。だが、アーマーを改造して、より快適にするのも良さそうだな。
さて、上昇をやめて再び前方へ進んでいくわけだが……遠くに妙なものが見える。パタパタと羽ばたく天使のような……ああいう生き物をなんというんだったかな?
透明な体の中で赤い器官が静かに動いている。全体的に丸っこく、可愛い。のだが、名前が出てこなくてもどかしい。確か、流氷の天使とか呼ばれてることは覚えているんだが。
「……クリオネのようですね。ヨータ様」
「クリオネ?」
「あの前方に見える魔物。クリオネに似ています。外のそれより相当大きく、成人男性ほどの体長はありそうです」
「なるほどね。アイ、捕獲を試みてみようと思うんだが……」
「問題ありません。こんなこともあろうかと、北の海をイメージした水槽をアクアリウムエリアに用意しています」
そうと決まれば、巨大クリオネの捕獲を狙ってみようか。念のために槍を構えつつ、俺はバンノウマルを加速させる。さあて、どうなるかな。ドキドキするぞ。
クリオネに近づいていく。見たところ、俺くらいの体長だろうか。そういえば、クリオネって普段何を食べたりしているんだっけ。と考えていると。
「——おわあ!?」
クリオネのプクプクした頭が大きく開き、バカッと内部から触手が飛び出してきた。その数六本! 触手に捕まえられるのを回避し、そのまま相手の体に降れた。
「アイ、転送だっ」
「はいっ」
クリオネの姿が消え、後には俺とバンノウマルが残される。後方には時空船艦も来ているね。ともかく、一瞬驚かされたが、どうにかなったな。
「やれやれだ。巨大クリオネ捕獲完了」
「お疲れ様です。と言いたいところですが、新たな魔物が迫ってきていますよ」
「ああ、こっちで目視したよ」
遠くから泳いでくるのは、今捕まえたのと同じ魔物たち。つまり巨大クリオネの群れだ。今度のやつらはすでに口を開き、触手をうごめかせている。その見た目は結構不気味だ。
「ヨータ様、魔物はなかなかの速さで動いています。速度だけならAランクの魔物に匹敵するかと」
「Aランクね。それなら、捕獲の訓練にはちょうど良いかな」
さっきは少し驚かされたが、あの触手さえ分かってしまえば、もう大丈夫だ。
「行くぞっ」
バンノウマルの右ハンドルを回しながら、相手を観察する。相手の数は六体。触手の数と同じだね。見たところ、触手を使って相手を丸飲みにするスタイルかな? おー、おそろしっ。以前鳥の魔物に飲み込まれた時は最悪の気分だった。同じ轍は踏みたくない。
「アイ、槍を一旦返す。収納してくれ」
「よろしいのですか?」
「ああ、槍が無い方が動きやすい。それより、合図をしたら転送よろしくっ」
「承知いたしました。ファイトです。ヨータ様」
金色の槍をアイに回収してもらい、俺はクリオネの群れへ向かっていく。魔物との距離が縮まっていき、触手を回避っ。まずは一体をタッチする。このタッチをした時、ふにっとした触感があり、気持ちいい。
「一!」
「はいっ」
その後も、迫る触手を回避しながら、魔物に軽く触れていく。俺が「二!」「三!」と叫ぶ度、アイが魔物を転送してくれる。魔物の数が半分を切り、四、五体目も無事捕獲。最後の一体まで、気は抜かないぞ。
最後の一体は、俺を翻弄しようと高速で泳ぎ回る。流石に水中では向こうに部がある。上下左右へ高速で泳ぎ回られては目で追いきれない。なかなかやるなっ。
俺が相手を完全に見失って数秒後、背後から高速で迫ってくるのが気配で分かった。そう、気配で分かってしまうんだよな。だから、無理して敵を視界に納める必要が、俺にはない。残念だったな。
背後からの突進を最小限の動きで回避し、同時に魔物の体へタッチする。よしっ。捕まえたぞっ。
「六っ!」
俺が叫ぶのに合わせて魔物が転送される。やれやれ、今度こそ、一息つけそうだ。
「アイ、このまま次の敵が出てくるまではのんびり進んでいく」
「ええ、旅を楽しんでください。ヨータ様。」
そうして、第三層を進んでいく。この海は第二層に比べると遭遇する魔物の数が少ない。だからか、その後は特にトラブルもなく黒い壁までたどり着くことができた。思ってたより、ずっと楽に進めたね。
「アイ、この壁を超えたら、いよいよ第四層だ」
「次はどのような海が待っているのでしょうね?」
「今度こそ、海上にでたいところだけど、どうなるかな? ワクワクする」
そして、来たいに胸を膨らませつつ、俺は黒い壁に触れる。さあ、次は海底ダンジョンの第四層だっ。




