おじさん、ハイスコア
夜遅く。俺は目の前のシューティングゲームに集中していた。もう少しでこのゲーセンのスコアを更新だ。今日はいけるぞ! やってやる!
画面の中で戦闘機が龍のようなボス相手に戦っている。敵から放たれる弾幕は激しく、これまで何度もやられてきた。だが、いい加減パターンは覚えたぜ。何度もやってるうちに避けかたも分かってきた。もうやられない。という自信がある。
そして……ついにボスが撃沈する。やった。スコアも更新だっ! ゲームは三週目に入り、戦闘は続く。それからも、しばらく頑張っていたが、ゲームオーバーになってしまった。まあ、頑張った。ハイスコアだし、良しとしよう。
「おお、兄さん……スコア更新したんだねぇ」
そんなことを言いながら近づいてきたのは全身に包帯を巻いたゲーセン店員、ヨースケだ。彼は満足そうにウンウンと頷いている。包帯姿なのもあって、少し怖い。
「もうすぐ閉店だ。その後で、良いこと教えてやるよお」
良いことね。気になってはいたが……彼は何を話すつもりだろうか? 穴場のゲーセンとか教えてくれるんだろうかね? なんて思いながら、俺は閉店の時間を待った。
閉店後、シャッターの降りた店の前でヨースケは自販機で何か買っていた。それを、彼はこっちに投げて寄越す。受け取ると冷たい。それは麦茶入りのペットボトルのようだった。
「毒なんか入ってないぜ。ハイスコアのお祝いだ」
「お祝いか。ありがとう」
ヨースケが先にお茶を飲み、俺は彼に続いてペットボトルの蓋を開けた。まだまだ暑い季節。冷たいお茶が嬉しい。
「それで、もう一つのご褒美だが……」
その後、ヨースケが話したのは、思いがけない言葉だった。
「海底ダンジョンのボス、サン・リバイアは雷を使う。対策しておくことを、おすすめするぜ」
「……へ?」
「あんたは、光の探索者だろ? 兄さんよ」
ヨースケは俺が光の探索者だと知っていた。それより、気になるのは、一般人だと思っていた相手が海底ダンジョンのボスについて知っていたこと。
サン・リバイアの名前が出てきたし、適当なことを言っている訳ではなさそうだが……注意深く、相手のことを観察する。ヨースケから、こちらへの敵意は感じない。
「信じるか信じないかは、あんた次第だ。俺は兄さんを応援してるぜ。だから、頑張ってくれよな」
シャッターに背を預けていたヨースケが、動き出す。こちらに背を向け、帰っていこうとする彼に、俺は気になっていることを聞く。
「ヨースケ、君は何者だ?」
「俺はこのゲーセンの店員。明日以降も普通に勤務してるから、いつでも遊びに来てくれよ」
ヨースケは手を振りながら帰っていった。後には俺一人が残され、なんだか妙なことになってきたぞと頭を悩ませる。
さて、ヨースケからの情報だが、信じて良いものか。急に海底ダンジョンのボスが雷を使うと言われてもな……ただ、雷への対策を用意しておくことで、こちらに不利なことがあるだろうか……無いよな?
ヨースケは一般人が知らないはずのことに詳しかった。俺の正体が光の探索者だったり、海底ダンジョンのボスがサン・リバイアだったり。雷のことも、信じるならば、相当な情報通だね。
彼の正体は気になるところだ。なぜ、そんなことを知っている? 気にはなるが……詮索するべきではない……気がした。
少なくとも、向こうから、こちらを害そうとするような雰囲気は感じられない。だから、探りをいれるのは……やめておこう。
裏路地のワープポイントから、時空戦艦に戻る。談話室でアイが出迎えてくれた。彼女に今日あったことを話すと「では、雷への対策を考えねばなりませんね」と応える。
おや、意外だね。アイならもっと話を疑ったり、怪しい人間は始末しておきましょう。くらいのことは言いだすかと思ったけど……彼女は、この情報を信じる価値はあると考えたようだ。まあ、変に面倒が起きたりしないのは助かる。
「了解。それなら、雷の対策を考えるか」
「では、船体全体を導電性の高い金属で覆う。というプランはどうでしょうか? 雷撃を外殻で受け止めるイメージです」
「なるほど? それは現実的に準備できる?」
「魚雷装備のついでで、やってしまいましょう。時空戦艦の能力をフルに使い、どうにか三日で間に合わせます」
「……あんまり無理はしないでね? それで、金属は何を使うんだい?」
「ミスリル鉱石です。ミスリルで覆われた時空戦艦、素敵ですよねえ」
いつだったか。アイがミスリル鉱石で時空戦艦を飾りたいと話していた時のことを思いだす。彼女の願い通りになったな。
ミスリルの追加装甲によって覆われた時空戦艦。その姿を見るのが楽しみだ。
「他に、雷対策として有用そうな案があれば話してくれ」
「では、こんなものはどうでしょう?」
俺とアイとで雷への対策を話し合う。その日俺が眠ったのは、もうほとんど朝になろうかという時間だった。その時には、すでに外殻の製作が始まっていたらしい。
そして、三日後。俺は時空戦艦の新たな姿に感動するのだった。




