おじさん、アクアリウムを見に行く
「魔王って……ヨータ兄さん。このダンジョンも魔王が出てくる感じなのかい?」
俺が魔王という言葉を出して、メグ師匠が怪訝そうな顔をする。この間、渋谷のダンジョンに魔王が出現したばかりだからな。そういう顔にもなるか。
「このダンジョン、Sランクの魔物が結構な頻度で出現しててな。リッチ先生に聞いたら、このダンジョンには魔王が潜んでるって話だ」
「リッチ先生がね……ふぅん……」
メグ師匠は先生と魔王との繋がりについて考えているな。ルリカさんはピンときていない様子。先生のためにも、ここは彼が無力化されていることを伝えておくか。変に敵視されたらと思うとかわいそうだもんね。
「先生なら、悪さはできないよ。常にアイに見張られてて、簡単に頭を破壊される状態だから」
「そうか……なら、良いのか?」
師匠の表情は相変わらずだ。それくらいの警戒心があるから、彼女はSランクの探索者をやれているのかもしれない。
「そうそう、話はちょっと変わるけど、俺Sランクの探索者になるそうですよ」
「おめでとう。って、なんでちょっと他人事みたいに話してんだよ」
「いや、まだSランクって実感がわかなくて……」
照れながら話す俺に、ルリカさんも「おめでとうございます」と言ってくれて嬉しい。最初はSランクになると聞いて少し面倒な気持ちもあったが、こうして祝ってもらえると嬉しいね。
その後も、雑談を楽しんでいた俺だが、あることを思いだす。そういえば、魚の入ったアクアリウムと警備のロボットたちを見に行ってない。
「……ちょっと、二人に見せたいものがあるんだが」
「見せたいもの……?」
「ですか?」
師匠もルリカさんも、なんだろう? みたいな顔をしている。そんな彼女たちにアクアリウムを見せれば、サプライズになるかもだ。彼女たちがどんな反応を見せてくれるか楽しみだね。
「それじゃあ、アイ。案内頼む」
「承知いたしました。今回は、時空転移で一気に移動しますか?」
「それが良さそうだ。というわけで、二人とも。移動するけど構わないかな?」
師匠とルリカさんから構わないとの返事をもらい、席を立ってもらう。俺も席を立つと、アイが「では」と言い、周囲の景色が歪む。数秒後には、戦艦内のアクアリウムまで移動していた。
目の前に広がるのは巨大な水槽。その向こうには、発光する魚たちの姿がある。俺が海底ダンジョンで捕まえたAランクまでの魔物たちだ。
「うおぉ!? これ全部魔物か! すっげえ!」
「まるで水族館ですね……ほんと、驚いちゃいます」
師匠の凄く素直な反応は可愛いし、ルリカさんの感動しているような反応も、見ていて嬉しくなる。
水槽の中の魚たちは優雅に泳いでいるな。戦艦のシステムで管理するという話だったが、今のところは上手く管理できているようだ。安心だね。
「お、ヨータさん。来ましたな」
後ろから声をかけられ、そちらを向く。そこには警備員のような服を着たリッチ先生の姿があった。先生の服はアイが用意したのだろうか?
ところで、先生の両脇に浮かぶ箱が気になった。その一つ一つは人の頭くらいの大きさで、アームが二本付いている。
「ヨータさん、この箱たちが気になりますか?」
「ああ、気になるな」
「彼らはアイさんが用意したロボットというものですな。名前は……こっちがアイン。こっちがツヴァイ。他にもドライやフィーアなど百機近くのロボットがこの階層を巡回中です」
「おお、お洒落な名前だね」
「アイさんが付けた名前です。仮の名前ということですが……改名されますか?」
ロボットたちの名前はアイがつけたのだろう。仮の名前らしいが……俺が改名するのはやめておこう。その方が良い気がする。
「いや、今の名前が素敵だ。改名の必要はないだろう」
それにしても、この小さな箱形ロボットたちが、ここの警備や管理をしているのか。なんというか、頑張れって気持ちになる。と、そこへ。
「おお! 骸骨のおっちゃん体付いてんじゃん!」
「食堂で見ないと思ったら、こっちに居たんですねー」
師匠とルリカさんが、こちらにやって来た。今、先生の存在に気付いたというよりは、俺たちの話が落ち着くまで待ってくれていたんだろう。ありがとうね。
「この箱ちゃんたちも可愛いですね。えっと、君がアイン?」
ルリカさんの問いに対し箱形ロボットは頷くような動作をした。おお、可愛い動きだな。師匠も興味深そうにロボットを観察している。
「……ところで、リッチ先生。何か必要な物はあるか? 言ってくれれば、可能な物は用意する」
「そうですねぇ。前言ったように、本を所望します。我、何かを読むのが好きで……ジャンルとかは、こだわらないです」
前も、リッチ先生は本が読みたいと話していた。ひとまず、色々用意してあげるとするか。彼も色々とやってくれているしな。
「アイ、彼のために本を用意したいと思う。明日は本屋に行くけど、一緒に行かない?」
「来てほしいんですね?」
「まあ、ね。せっかくだし、一緒にショッピングとかしたい」
「分かりました。Sランクの手続きをするついでに、本を探してきましょう」
ありがとうな、アイ。とりあえず、明日の予定は決まりだ。




