おじさん、アンコウ鍋を食べる
魚獲りと水中ドライブを楽しんだ後。時空戦艦で小休憩し、メグ師匠の道場に向かう。数時間の稽古を終えて、師匠やルリカさんと共に時空戦艦へ戻ってきた。今日一日、楽しみにしていた夕食の時間だ。
「皆様、お疲れ様です。アンコウ鍋の準備、できていますよ」
時空戦艦の食堂。和装メイド姿のアイと、大きめのアンコウ鍋が俺たちを出迎える。味噌の香りが鼻をくすぐり、食欲を刺激する。良いねぇ。早く食べたい気分だ。
「こちら、ヨータ様が今朝倒したチョウチンアンコウの魔物になります。美味しいお鍋にしましたよ」
「アイ、自信満々って感じだな」
俺の言葉にアイは「もちろんです」と誇らしげに応える。彼女の作る料理はどれも美味しいからな。期待してるよ。
「それじゃ、食べるとしよう。ルリカさんたちも、いっぱい食べていってくれ」
「はいっ。ありがとう。ヨータさん」
「ご馳走になるぜ。ヨータ兄さん」
道場での稽古でお腹は空いているからな。それに、これだけ良い香りがする中で、これ以上我慢をすることはできない。今すぐ、鍋を食べたいぞ。
アイが見守る中、皆で席に着き、手を合わせる。そして早速、鍋をいただく。まずは、味噌のスープから……おお! これは濃厚な味! 出汁のうま味がよく効いて、幸せな味だ。温かい液体は喉から胃へと落ちていき、体が内から暖まっていく。
ルリカさんも、メグさんも、あまりの美味さに口数が少なくなっているようだ。二人とも、黙々と鍋の具を口に運んでいる。分かる! 分かるよその気持ち! スープだけでこんなに美味いんだもん! 俺も、アンコウの具をいただこう。
まずは……胆だ。早速、口へ。うむっ! これは……濃厚な味噌スープの中で、より濃厚な味が詰まっている。この一口だけでも、すさまじい満足感!
だが、まだ鍋は食べ始めたばかり。この鍋を食べ終わる頃には、俺はどうなってしまうんだ!?
ゴクリ……では、皮もいってみよう。うぬっ! 少し噛んだだけで分かるプリップリのコリッコリだ。この皮の中に、どれだけのコラーゲンが存在するんだ?
ヒレも、プルプルしていて、とても美味い! なんだか、皮やヒレを食べているだけで肌が若返っているかのような感覚になる。よく見ると……ルリカさんも、師匠も、ヒレと皮ばかり食べているような……気のせいか?
さあ、次は白身だ。箸でつつくと、それは刃を入れられたかのようにホロホロと崩れていく。これはまた、他の部位とは違った印象を受けるな。
白身を口へ運ぶ。むむっ! これも! 美味いぞー! 口からビームが出そうなくらいの衝撃! 味が濃いというわけではない。しかしこの、口の中で雪のようにほどけていく感覚! 今まで感じたことのない不思議な食感に、俺は感動を覚える!
こんなに美味い魔物が、存在したとは! しかも、この魔物、使えない部位がないのではと思えるくらいに、様々な部位が使われている。胆、皮、ヒレに白身。更にエラや卵巣、胃までもが、幸せな味を与えてくれる。
正直に言おう。このチョウチンアンコウのためだけでも、海底ダンジョンへ潜る価値がある。想像していた以上の味と嬉しさだ。そして、もしかしたらこれよりさらに美味い魔物が居るのではないかと、このダンジョンへの期待が膨らむ。
ふぅ……鍋いっぱいにあったはずのスープや具が、今はもう残り少ない。結構な量を食べたはずなのに、もう終わってしまうのかと寂しくなる。また、食べたいと思う。そんな俺にアイが言う。
「……鍋が少なくなってきましたね。締めの雑炊も用意できますが、どうしますか? ヨータ様」
え!? 雑炊もいけるのか!? 気付けば、ルリカさんと師匠から期待のこもった視線を向けられている。なるほど、なら食べるしかないよなぁ!?
「分かりました。少々お待ちください」
ほどなくして、雑炊の準備ができた。濃厚な味噌スープ、具と米とが溶き卵により調和する。ちなみに使うのは少し特殊な卵だとか。アイがこういう時のために通販でコカトリスの卵を用意していたそうだ。最近の通販はなんでも買えるな。
ちょっとした驚きを感じつつ、雑炊をいただく。おお! これも良い! さっきまでの寂しさが、締めの雑炊のお陰で少し薄れる。名残惜しくはあるが、この雑炊のおかげで、前向きな気持ちでアンコウ鍋とバイバイできそうだ。
……ごちそうさまでした!
いやぁ、とても良い夕飯だった。これまでの人生で最も美味かったまである。これが某漫画なら俺の最高のフルコースに加えているところだ。第二層でこれなら……その時、俺にある考えが浮かぶ。
「なあ、アイ。リバイアサンって食えるのかな?」
「それは、実際に倒してからでないと分かりませんね」
「だよなあ……だが、もしかしたら……めちゃくちゃ美味いんじゃないか? このダンジョンのボスモンスターっぽいし」
海の大魔王を食う。時空戦艦の力を使えば、それも可能だと思える。一度気になったら食べてみたい! 俺の、このダンジョンでの個人的な目標が決まったぞ!
「アイ、俺は海の魔王が食べたいぞ」




