おじさん、昇格する
翌日、俺はアイと共に東京渋谷の探索者協会本部までやって来た。ここ、ダンジョン監理局とは場所が違うんだよね。一緒にしちゃえば良いのに。なんて考えてしまう。
大事な話があるので、フォーマルな格好をしてきた。アイも黒縁眼鏡にパンツスーツの会社員みたいなスタイルだ。横に居てくれるだけでも頼もしい。
建物に入ってすぐ、俺たちを出迎えてくれたのはハナヤギ会長だった。よく見ると、彼女の側には秘書さんが控えている。二人とも綺麗だなあ。
「ごきげんよう。お待ちしておりました。さ、こちらへ」
建物の奥へ案内されて、エレベーターに乗る。俺たちを乗せたそれはビルの最上階まで上り、停止した。そうやって案内された部屋は渋谷の町並みを見下ろすことができる。絶景かな。
高級そうな椅子に座るように促され、席に着く。スケスケのテーブルに書類が置かれ、手続きが始まった。これが終わったら、俺はSランクの探索者になるわけか。なんか、あんまり実感がわかないな。
「……それでは、手続きを始めますわ」
「はい。お願いします」
了解だ……そんな感じで手続きを進めていく。そして、手続きは拍子抜けするくらい簡単に終わった。やっぱり、Sランク探索者になるという実感がわかないな……いや、もう俺はSランクになったのか。
「これで、必要な手続きは終わりですわ。お疲れさまでしてよ」
「はい。資料は全て目を通してサインしました。が、いくつか質問をしてもかまいませんか?」
俺の問いに会長は「よろしくてよ」と答える。今更だけど、お嬢様言葉を目の前の相手に聞かされると、なんだか不思議な感じがするな。物語の世界に入っているみたいな感覚というか……まあ、良い。
「それでは、質問します。Sランク探索者への昇格には探索者協会の会長とSランク探索者一名ずつが立ち会うこととありますが……」
「それなら、問題ありません。そこに居るイソノがSランク探索者の資格を持っていますわ」
会長の言葉に合わせて秘書さんがペコリと頭を下げた。この人イソノさんって言うんだ。イソノっていうと、どうしても某アニメの一家をイメージしちゃうな。
「なるほど。では、次の質問をさせてください」
「どうぞ」
「Sランク探索者はダンジョン監理局及び探索者協会が保有する全ての施設、及びデータベースを可能な限り利用できる。とのことですが」
これ、結構ヤバイことが書いてあるようにも受け取れるのだが。
「これは日本の探索者協会の施設とデータを全て。ということで良いんですか?」
「ほぼ、ですわ。Sランクになったヨータさんは探索者のために用意された国中の施設及びデータベースをほぼ全て利用できます」
「ほぼ、と言うと?」
「他者を害する目的での施設利用。及び、他者を害すると判断されるような利用はできません。例えば協会のデータベースから特定の人物のプライベートな情報を、正当な理由なく見たりは、できませんわ」
「なるほど」
あくまで常識の範囲内で利用してくれってことか。それなら、ちょっと安心……かな? ただ、このことで気になるところがあるんだよな。
「俺から探索者協会に渡す海底ダンジョンの情報は、一般や、Sランクの探索者にはどの程度公開されますか?」
「それはアイさんと話し合い中です。安心してください。アイさんが指定した以外の情報は、ヨータさんのプライベートな情報として、公開しません。Sランクの探索者が相手でも、ですわ」
「それはありがたい」
「下手なことをして、ヨータさんとの関係を悪くしたくは、ありませんもの」
前から感じていたが、会長は俺に対してはかなり慎重に動いているように思う。それだけ会長は時空戦艦を重要視してるってことだろうが……まあ、こっちの要求が通りやすいのは助かる。これからも、持ちつ持たれつの関係を維持していこう。
……ああ、そうだ。そういえば、会長に見せたい物があるんだった。とはいえ、ここでそれを出すわけにはいかんのだが。でかすぎる物は扱いに困るよな。
「ハナヤギ会長。ちょっと見てもらいたい船があるんですが……ガレオン船くらいのサイズです」
「そのサイズの船は、ちょっと見せるものではないように思いますが……良いでしょう。船を見るための場所があれば良いのですね?」
「はい、お願いします」
会長は察しが良くて助かるよ。そうして、すぐに会長は船を見てもらうためのドックを紹介してくれた。ああいう場所って造船だけじゃなくて点検とかにも使うんだってね。
その後、少し世間話をして、俺たちは席を経つ。あんまり長居するのも良くはないだろうしね。会長たちも席を立ち、俺とアイを探索者協会の入口まで見送ってくれた。親切な対応に嬉しくなる。
探索者協会を出て、しばらく歩いてから、俺は振り返った。流石に会長たちの姿はない。そこでようやく、俺は大きく伸びができた。ふい~。結構緊張した~。
「アイ、今日の俺は上手く話ができてたかな」
「及第点といったところですね」
「そりゃ、手厳しいな」
アイの辛口評価に苦笑しつつ「じゃ、行こうか!」と元気よくアイに言う。今日は本を買う予定もあるのだ。
「本屋で色々探すから、良さそうなものを見つけたら教えてくれ」
「ふふっ任せてください。すでに流行りの本はリサーチ済みです」
そう言って、眼鏡をクイッと上げるアイ。うちのメイドさんは頼もしいよ。それじゃ、本屋さんでのショッピングを楽しむとしよう!




