おじさん、交渉する
「……我は数ある船の一隻を任されているに過ぎません。なので、魔王様のことや、全体の戦力に、そこまで詳しいという訳でもないのです……」
ふむ、リッチ先生が嘘を着いている感じはしない……と思う。ただ、魔王の戦力について何も知らないってことは、ないんじゃないか?
「先生、知ってることで良い。話してくれ。おおよその敵の船の数とか、魔王がどれくらいでかいか。とか、分かることはあるはずだ」
「そ、そうですねぇ……海賊艦隊は我の知る範囲で、百隻は越えていたかと思います。リバイア様はそれらの船を全て並べたよりも巨大です。このダンジョンの第七層は全てがリバイア様の庭になっていて、あの方はおそらくそこに潜んでいるかと」
「なるほど。海底ダンジョンの第七層は大ボスの部屋ってわけだ」
「え、ええ。そして第六層には海賊艦隊の本体が控えているでしょう。他の階層でも、海賊船と会うことはあるでしょう」
「海賊船はこちらに襲いかかってくる?」
「おそらくは」
先生の話を信じるなら、ここから先へ進むのは結構大変そうだ。今の戦力でもなんとかなるかもしれないが、できることなら戦力を強化したい。
アイと会長は黙っている。会長、何か考えているっぽい。思考を邪魔するのは悪いかな。まず、アイに話しかけてみよう。
「アイ、時空戦艦に水中戦用の装備はあるのか?」
「戦艦の主砲も、ミサイルも、水中でも使用できます。ただ、水中戦に特化した装備ではありません」
「そんな気はしてた。となると水中に適した武装が欲しいところだな。例えば、魚雷とか」
「魚雷を撃てるように改造……良い考えだと思います。時空戦艦の武装を改造するとなれば、それなりの時間はいただくことになりますが」
「時間ってどれくらい」
「それなりに大きな改造になります。なので、改造を始めてから、三日はいただきたいですね」
「あーうん。それくらいなら待てるよ」
というか、むしろ三日で魚雷装備を用意できるのか。凄いな。時空戦艦のメカニズム。
「しかし、ヨータ様。魚雷装備を準備するために問題があります」
「どんな問題?」
「単純に資材が足りていません。その問題を解決するために、ハナヤギ会長の助力を得ることを勧めます」
「……とのことですが、会長」
それまで静かにしていた会長がハッとしたような顔になる。今、彼女はここには居ないが、映像だけでもその驚き様が伝わってきた。なんか、かわいいと思う。
「ええ、ヨータさん。聞いていましたよ。しかし、海賊艦隊に海の大魔王ですか。厄介なことになりそうですわね」
「そこで会長の助力を得たい。具体的には、魚雷装備のために必要な資材を譲ってほしい」
流石に戦艦の魚雷を数億ぽっちで揃えるのは難しいだろう。海賊艦隊が相手なら、それなりの数の魚雷を用意したいからな。
「魚雷用の資材を譲ってほしいとは、大きく出ましたわね。不可能ではありませんが、それなりの対価を要求しましてよ」
「対価……ですか……」
やはり金か? あまり借金はしたくないんだが。なんて考えていると。
「ヨータさんの海底ダンジョンでの活動記録を、一般に公開させていただきたいのです」
「活動記録を……?」
俺としては、構わない。けど、それを頼む理由はなんだ? 詳しく、話を聞かせてもらおうか。
「魔王種の問題は、周辺の安全に関わるものです。それどころか、今回の問題はより大きなものへと発展する可能性がある。ダンジョンの問題は、なるべくダンジョンの中で解決したいものですわ」
「それは、俺もそう思います」
「そこで、件のダンジョンの映像です。映像があれば、魚雷の資材を必要とする理由になります。今、そこには多くSランクの魔物が出現しているようですから」
「なるほど。こちらに資材を渡すために、最もな理由が必要だと」
まあ、理由もなく物騒な資材を動かしたりはできないか。うん、納得。
「映像は、そのために必要です。それと万が一に備え、一般市民にも海底ダンジョンで起きている異常を知らせる必要がありますわ。もしもの時、避難を促すためにも、映像は必要です」
ふむ……どうも……会長には、それ以上の狙いがあるようにも思える。が、今は協力を得られるということで良しとしよう。映像が出回るのは少し恥ずかしいが、今更だ。知られたって別に良いさ。
「……分かりました。それでよろしくお願いします。ハナヤギ会長」
彼女との関係は持ちつ持たれつだ。これで良い。
その後、海底ダンジョンの情報を会長と共有し、いくらかの魔物や鉱石は会長へ送ることになる。他、海賊船で見つけたお宝なども、会長に買い取ってもらうことになった。結構な儲けが期待できる。良いね良いね!
そうして会議も終わりに近づいたころ。会長からの一言に驚かされることになった。
「それと、ヨータさん。あなたはS級探索者に昇格ですわ。手続きが必要なので、また近いうちに探索者協会の本部までお越しください」
S級探索者……全く予想していなかったわけではないけど、いざそうなると思うと、実感が湧かない。船に魚雷を付けるまでの間に、探索者協会にも顔を出すとしよう。




