おじさん、魔法を練習する
リッチ先生をテーブルに置き、俺とルリカさん、メグ師匠とで魔法の特訓をしている。
まずは水球を作ってみよう。ということになり、挑戦すること数十分。なんとか水球は作れるようになった。が、これの強度を変えようとしたりすると、なかなか難しい。
大事なのはイメージだって話だが……硬い水っていうのが難しいんだよな。氷じゃなくて、硬いだけの水か。
うーむ、試しに氷を作ってみるか。なんて思いながら冷たい固まりを想像してみた。氷……氷れ……お、水球が……若干冷たくなった?
「ヨータさん、水を氷らせようとしていますか?」
「分かるの? リッチ先生」
「周囲の魔素の変化は分かりますよ」
流石だな。魔法に関してはプロフェッショナルだ。拐……スカウトして良かった。
「水球を作るところまではいけたけど、それを変化させようと思うと、なかなか難しい」
「数十分で水球を作るところまでいけたなら上出来ですよ」
「とはいうが、あれを見るとなぁ」
俺は横に座るルリカさんが作ったものを見る。彼女、水の形を変えて鳥みたいなものを作っていた。流石に動き出したりはしないようだけど、結構精巧な作りで、凄いと思う。
「ルリカさん、凄いね。鳥、可愛いし、よくできてるんじゃないか?」
「えへへ。そうですか? ありがとうございます」
「その鳥、触れてみても」
「はい、触れてみてください」
水の鳥に触れてみる。それはガラスのような質感で、しっかりとしていた。流石だな、と感心する。
ルリカさんは嬉しそうに笑って、また別の鳥を作り始めた。もしかしたら彼女、魔法の天才なのかもしれない。思わぬ才能を見つけてしまったな。
メグさんは、俺と同じくらいの段階のようだ。なんとか水球は作れたが、その先で苦戦している。分かる、分かるよ。水球の形を変えたり性質を変えようとすると難しいよね。
ちなみに魔法の発動に詠唱などは必要ないらしい。あくまで、大事なのはイメージすることだ。
さて、魔法の訓練を続けているうちにお腹が空いてきた。もう少しこの訓練を続けたいところだが、どうするか。なんて考えていた時。
「皆さん、食事ができましたよ」
その言葉と共に、アイが転移してきた。彼女の両手には大皿があり、美味しそうな料理が乗っている。
「アイ、持とうか」
俺は魔法の特訓を中断し、水球を霧散させた。アイのもとへ向かい、彼女から皿を一つ受け取る。これは、ミニマイコニドの天ぷらかな? ごま油を使ったのだろうか。香ばしく豊かな香りが食欲を誘う。
「お昼は、天ぷらとおにぎりを作りました」
「美味しそうだ。早速いただくとしようか」
俺の言葉に合わせて、ルリカさんとメグ師匠も魔法を霧散させる。鳥の置物が消えるのは少し、もったいなく感じたが、ルリカさんならまたすぐに作れてしまうのだろう。
「お昼だな。実はあたし、お腹ペコペコでよー」
「私も……いただきたいです」
もちろん構わない。ということで、食卓に料理を並べた。席に着き、料理をいただくことにする。皆で手を合わせ、それから食事を始めた。アイとリッチ先生は見ているだけみたいだったが。二人とも食事する機能が無いからだ。
「キノコを揚げたものですか。良い香りですねぇ」
リッチ先生、香りは感じられるのか。そうだよね。やはり、良い香りの天ぷらだ。
「ヨータ様。天ぷらは塩、醤油、ソースのどれでいただきますか?」
アイが調味料を勧めてくれる。俺は「塩かな」と答え、新たに運ばれてきた調味料と小皿を受け取った。
天ぷらに塩をかけ、口へ運ぶ。うん! 肉厚でしっかりした食べごたえ。サクサクの衣の中から出てくるそれには、濃厚な旨味がある。
おにぎりも美味い。今日のおにぎりは塩気が控えめで、米本来の味が口いっぱいに広がる感じだ。口の中で、米がほどける感じがするのは、これが炊きたての米だからか。それとも、アイの料理スキルによるものか、とにかく美味い。
「めっちゃ美味いぜ。アイさん、これなら、またダンジョンから食材をとって来ようかな」
「はい、本当に。とても美味しいですっ」
ルリカさんやメグ師匠も満足してくれているようだ。美味しいという感想がもらえて、アイも嬉しそう。俺からも、感謝の気持ちを込めて言葉を送る。
「アイ、今日の料理も最高だ」
「ヨータ様まで。ありがとうございます」
そうして、幸せな食事の時間はのんびりと進んでいった。
昼食後、ルリカさんたちは埼玉へ戻っていると言う。夕方までは、お別れだ。アイが「夕食はアンコウ鍋にします。ぜひ、お二人も」と言うと、二人とも喜んで、また来ると約束してくれた。皆で食べる方が嬉しいしね。俺も、それで大丈夫だよ。
後には、俺とアイ。そしてリッチ先生が残される。それじゃあ、行こうか。今日は昼に人と話す約束をしているからな。彼女に、リッチ先生のことは紹介しておこうと思う。
「アイ、会議室に向かおう。午後から魚を捕まえる前に、やるべきことを、やっておかなくちゃだ」
「ハナヤギ会長との会議ですね。分かりました」
「と、いうわけでリッチ先生にも来てもらうぞ」
「わ、我もですか? どうして?」
「まあ、海底ダンジョンで見つけた諸々は報告することになってるんでね。悪く思わないでくれ」
まあ、会長は俺たちが海底ダンジョンへ入るための面倒な諸々を済ませてくれるからな。報告くらいは、ちゃんとやるべきだ。
いつもはアイが連絡を取りあっているが、今日は俺も交えて話したいとのこと。久しぶりに会長と話すとしよう。




