おじさん、海底ダンジョンへ
太平洋の深海にて。俺は艦橋から海底ダンジョンの外観を眺めていた。本当に深海までやってきても問題ないのだから、時空戦艦って凄い。
時空戦艦のライトにより、海底ダンジョンが照らされている。海底から伸びる黒い塔は、東京で見ていたものと、よく似ている。
「ダンジョンの外観は渋谷のものと変わらないんだなぁ」
「その通りです、ヨータ様。現在確認されているダンジョンの外観は全てが黒い塔のようなものとなっております」
「うん、ところでアイさんや。その格好は?」
今日のアイは探検家みたいな格好をしていた。半袖のジャケットにショートパンツ。ベージュの生地は頑丈そう。腕や脚がしっかりと見えていて、球体関節がなんかエロい。
「せっかく久々の探検なのですから、気分を盛り上げようと思いまして」
「そうなのね。うん、かわいいと思うよ」
アイとそんなやり取りをしていると「お二人共仲が良さそうで」なんて声をかけられる。声のした方にはメグさんの姿。なんだい、その愉しそうな顔は?
「いやー甘いものを見せてもらったぜ。見送りに来たけど、お邪魔だったかな?」
「メグさん、こう話してますけど。本当はヨータさんのことを心配してるんですよ」
メグさんの隣に立つルリカさんが困ったように笑った。彼女たちが見送りに来てくれたのは凄く嬉しい。
「ヨータの兄さんなら大丈夫だと思うけどよ。なんせ、ここは深海。海底ダンジョンは前人未踏の領域だ。心配するなって方が無理だぜ」
「確かに、そうかもしれない。でも、戻ってくると約束しますよ。メグさん」
「今日の夕方も稽古を受けに来てくれ。約束だ」
「はい。メグさん、ルリカさんも、また後で」
ルリカさんたちから「無事戻るように」と言われ、責任感を覚える。心配してくれる彼女たちのためにも必ず戻ってこよう。
「それじゃあ、そろそろ行くか」
「ご武運を、ヨータ様。私も、ここからサポートします」
アイは水中でも呼吸が出きるし、バリアで水圧にも耐えられるらしいけど、万が一があるといけない。俺から頼んで、ここに待機してもらうことになった。そんなわけで、海底ダンジョンには俺が単身、突入する。まあ、なんとかなるだろ。
鎧をちゃんと着ているし、忘れ物も……無いな。準備はできてる。行ってみよう。
「アイ、俺をダンジョンの側まで転移させてくれ」
「承知いたしました」
周囲の景色が歪み、数秒後には海底ダンジョンの側へ転移する。同時に、全身への圧を感じた。とはいえ、体が潰れたりする程のものではない。呼吸も問題なさそうだし、ひとまずは安心だ。
正直、不安が全く無かったかと言われると嘘になる。アイから大丈夫だと念押しされていても、それでも、海底ってのは少し怖い。非常に過酷な環境というイメージが強いからだ。
けれど、こうして来てみると不思議な感じだね。今はとてもワクワクしている。
「アイ、ひとまず海底の環境でも活動ができそうだ。今は、戦艦のライトで照らされたダンジョンが見える」
「はい、ヨータ様。聞こえています。そこから前へ進めますか?」
「このまま前進して、海底ダンジョンの壁に触れる」
ダンジョンというものは、触れることで第一層に送られるようになっている。
かつて、渋谷ダンジョンに空から侵入を試みた探索者も居たそうだが、塔の壁に触れてすぐ草原エリアに転移したらしい。なので、とりあえずは黒い壁に触れることだけ考えて進む。
黒い壁に触れた。直後、体がダンジョンへ引き込まれるのが分かった。視界が暗くなり、辺りが見えなくなる。けど、水圧や呼吸の問題は、今も変わらず。無事に、海底ダンジョンへ侵入できたようだ。
「鎧の推進装置も問題なく動いている。少なくとも、溺れることはなさそうだな。アイ、鎧の照明を点けてくれ」
「承知いたしました。ヨータ様」
すぐに鎧のライトが点灯した。これで、ある程度の視界は確保できる。アイとの通信にも問題はない。今も、彼女が俺をサポートしてくれているのだと思えて、寂しくない。
辺りを見回す。上はどこまでも暗く、このままどこまでも水中が続いていそう。背後には壁があり、触れれば外へ出られそうだ。少し進んでみると、石造りの建物が見えてきた。
「海底に沈んだ古代都市って感じかな。渋谷ダンジョンの第九層が海に沈んじゃた……みたいな感じの場所だね」
まあ、雰囲気が似ているというだけの話だが。
「神秘的な場所だが、ところどころに魔物の気配があるな。アイ、スピアガンを出してくれ」
「承知いたしました。特性スピアガンの使いどころですね」
送られてきたスピアガンを受けとる。まさに、海中使用って感じの装備。テンション上がるなぁ。
「ヨータ様、あなたの活躍は時空戦艦の撮影機能でバッチリ録画しています。かっこいいところ見せてください」
「言われなくても。かっこいいところ見せますよ」
建物の中を調べる前に、近くの魔物を倒しておこう。そう思って、気配のした方へ向かう。そこに居たのは……うげ。
人によってはかわいいと思うのだろうか? 建物の壁に巨大なグソクムシのような魔物が張り付いている。ダイオウグソクムシをさらに巨大化させたみたいな……ソッキラスとでも名付けようか。
ともあれ、海底ダンジョンで最初の戦闘だ。気合いを入れていくぞ!




