おじさん、道場で稽古する
翌日、夕陽が差し込む道場へアイと共にやって来た。今日の彼女はジャージ姿で、運動部のマネージャーみたいだ。あるいは、生活感のあるお姉さん。良いね!
俺はというと、道場の稽古着を貸してもらった。元々はメグさんの父親のものらしい。そういえば父親の姿は見かけないが、どうしているのだろうか? 聞くべきか……聞かないべきか……うん、やめておこう。
道場にはルリカさんとナツちゃんの姿もある。他にもメグさんと同い年くらいの女の子が数人。男は俺だけ……なんというか、ちょっと寂しい。
ハーレムのような状況に喜ぶ……のは無理だ。恥ずかしさの方が勝つ。とはいえ、それくらいは我慢だ。早く稽古を受けたくてワクワクしてるしな!
畳の上で正座し、こちらを向くメグさんの動きを待つ。彼女、とても綺麗な正座をするな。座っているだけなのに、様になっている。そんなことを思っていると、メグさんが口を開いた。
「……それじゃあ、今日の稽古を始めるぜ」
ほどなくして、稽古の開始だ。メグさんの説明によると、ここでは、型稽古というものが基本になるらしい。俺の中では、道場で素振りや、一対一の試合をずっと続けるようなイメージがあったけど違うみたい。面白そうだね。
「型稽古では、決まった動作を繰り返し練習してもらう。先人たちがたどり着いた動きを、その体で自然におこなえるまで何度でも練習させるからな」
さっそくメグさんが俺と組み、型を教えてくれる。これから、たくさん学ばせてもらいますぞ。先生! 期待してますからね!
「私がこう動いたら……ヨータの兄さんはこう動く! そこから、こうして……こうだぜ」
メグさんに手取り足取り、どう動くべきかを教えてもらう。習った動きを模倣するように、繰り返す。どうやら、メグさんの攻撃に対するカウンターを入れる動きのようだ。足の運び方から竹刀の握り方まで細かく教わる。なかなか楽しい。
型稽古を繰り返すうちに分かった。メグさんは寸分の狂いもなく同じ動きを繰り返すことができるのだ。対して、俺も同じ動作を繰り返すことで動きを最適化していく。なるほどね。
これ、格闘ゲームのトレーニングモードみたいで結構好きだ。少なくとも、俺には合ってる。
「……なあ、ヨータの兄さん」
「何です? 先生」
「あんた、動きを覚えるのが早くないか? もうほとんどこの動作を模倣できているぞ」
渋谷ダンジョン第一層での身体改造の影響だな。あれから、色んな動きが楽に覚えられるようになった。練習を重ねるほど確実に上達するのがめちゃくちゃ楽しいんだよな。
「もしかしたら、兄さんはすぐここで教えることはものにしちまうかもな。楽しみだぜっ」
その後もメグさんとの稽古を重ね、夜になった。夜も遅くならないうちに稽古は終わる。道場の隅に移動していたアイが俺の元へ寄ってきた。タオルを手渡され、汗を拭く。こうしてみると、本当にマネージャーみたいだね。
「ヨータ様、初の稽古はどうでしたか」
「ああ、たぶん良い感じだ」
俺が言うとメグさんが「たぶんなんてもんじゃねーよ」と楽しそうに言う。俺は学ぶのが楽しいけど、彼女は教えるのが面白いように見えた。
その後、ナツさんや他のお弟子さんたちから、アイが質問責めに合っていたのは助けるべきか迷った。主に俺のこと、そして彼女と俺との関係についての質問が多かったね。アイは「秘密事項です」の繰り返しで逃れようとしてたけど、正直苦しいよそれは。
アイから情報が聞き出せないとなると、今度のターゲットは俺に……はならなかった。彼女たち、こっちにしつこくするのも悪いと思ったのか、それともおじさんには話しかけにくかったのか……助かったけど、ちょっと寂しい。
ナツさんや他のお弟子さんたちが帰っていき、後には見知ったメンバーが残る。俺とアイ。メグさんと、ルリカさん。そうだ。前からどうしようか迷っていたことがあるけど、この際だから話してみようか。
「ルリカさん」
「はい、何でしょうか?」
「実は……」
ルリカさんも、ワープポイントを使えるようにするかという相談だ。返事はイエス。というか、ルリカさん二つ返事で「ぜひ!」と言ってくれた。嬉しいけど、もう少し悩んでも良いんですよ……?
「では、早速時空戦艦に行ってみましょう! 行きたいです!」
ルリカさんから若干の圧を感じつつ、俺もそうしたいと思う。そんな俺たちにメグさんが「お、良いねえ」と乗ってきた。
「時空戦艦の湯に浸かりたいと思ってたんだ。少し準備するから先に行っていてくれよ」
メグさん、この前も湯について話してたし、凄く気に入っているんだろうな。それがなんか嬉しい。
「……なるほど、ヨータ様のお客様が二人来られるなら、今夜の料理は少し多めに作りましょう」
アイもノリノリだね。今夜の時空戦艦は賑やかになりそうだ。ただ、明日は海底ダンジョンへ行く。はしゃぎすぎたりしないよう、自制心はしっかり持とう。
そうして、今夜は再び時空戦艦にお客さんを招き、皆で一緒に料理を食べたり、楽しい時間を過ごすのだった。




