おじさん、ミイラ男と出会う
東京都、多摩市内のゲームセンターで俺はのんびり遊んでいた。アイは服を買いに行きたいと言っていたので別行動だ。やっぱりアイも女の子だね。というか、彼女がどんな服を選んで買うのか気になる。下着売場も見ると言っていなければ、俺もついていったんだがなぁ。
ゲーム筐体の画面では戦闘機がせわしなく動いている。けど、これくらいなら全然余裕。手元は素早く動いているが、心は落ち着いたものだ。
「……お兄さん、上手いねえ」
そんな声がして、ちらりと声のした方を見る。そこに居たのは全身を包帯で巻いた男。まるで墓から甦ったミイラかのような姿にぎょっとした。あ、ああ~! 驚いたせいで自機がやられてしまった。自己スコアの更新も狙えてたのにぃ!
「驚かせちゃったか? すまんな」
「あ、いえ。やり直せば良いので」
「そうか。そう言ってくれる兄さんは良いやつだ」
どうも。というか俺も人の姿を見て驚くのは少し失礼だからな。相手の方があまり気にした様子でないのは助かる。
「……俺は、ヨースケってもんだ。普段はここのゲーセンで遊んでるか働いてるからよ。いつでも来てくれると嬉しいぜ」
「なるほど。俺はヨータです。なんというか名前似てますね。俺たち」
「偶然もあるもんだなぁ……」
ふむ、見たところ彼とは背格好も似ているな。まあ、そういうこともある……か?
「ちなみにこのゲーム、ここで一番のハイスコアは今のところ俺なんだよな。もし、俺の記録を抜けたなら、秘密を一つ教えてやろう」
「秘密ですか?」
「そ、秘密。ここだけの話、世界規模のトップなシークレットだぜぇ」
……どこまでが本気か分からないけど、面白い。この店のゲームでトップのスコアを目指すってのも面白そうだ。
「……とと、いけない。いけない。今日はルリカちゃんの配信があるんだったぜ。俺って、彼女のファンでさ。そんなわけで失礼する」
そう言ってミイラ男、ヨースケさんはそそくさと去っていく。彼もルリカさんのファンなのか。なんか、同じ配信者さんのファンと出会えたのは結構嬉しい。
――って、いかん! 俺もルリカさんの配信を見ないと。確か、彼女の配信が始まる時間はそろそろだったはず。気付けばもう昼近くまでゲームしてたんだな、時の流れは怖いわ~。
俺はゲームセンターを出て裏路地へ移動する。そして、時空戦艦の館内を思い浮かべた。すると景色が歪み、数秒後には館内の自室に到着していた。
これが、時空戦艦へ新たに拡張された機能! 地味ながら便利なのだ! 時空戦艦を中継地点とすることで、様々な場所にワープポイントを作ることができる! しかも俺が許可した人物なら誰でもワープポイントを自由に使えるぞ!
自室に置かれたパソコンを起動し、素早く動画サイトにアクセスする。そこで配信画面を開いてルリカさんの配信が始まるのを待つ。
「……おや、ヨータ様。お帰りでしたか」
「――うぉ!? アイ、君も帰ってたの?」
「ええ、つい今しがた」
な、なるほど。彼女もワープポイントを使ってこちらに移動してきたというわけか。ううむ、俺の自室を中継ポイントに設定してるのは少し良くないかもしれな。毎回誰かが入ってきて驚かされたら、たまったものではない。
「アイ、後でワープポイントの中継地点について話し合おう」
「それが良さそうです。けれど、今はルリカさんの配信が気になるのではないですか?」
「そうだね。今はそっちが気になる。ともあれ、おかえり。アイ。良い服は見つかったかい?」
「ええ、色々と素敵な服が見つかりました」
「良ければ、配信の後で見せてほしいなあ」
「ふふっ。分かりました。後でファションショーを開きましょう!」
そんな会話をしている間にもルリカさんの配信が始まった。彼女は今、さいたまダンジョンへ行っているらしい。こちらのダンジョンは、異常もなく平和なものだそう。彼女が安心して冒険できることを、俺は望んでいる。
ルリカさんはダンジョンを進みながら、普段の配信のようにビギナー探索者に向けた情報を発信している。今回は薬草の採取のコツなどを話していて、勉強になる。メモを取っておこう。
「今、配信をしながらSランク探索者のメグさんの道場で修行をしています。刀と盾を組み合わせた戦い方をものにするため、頑張ってます」
確か、メグさんの道場も埼玉県にあるとかいう話だったか。しかし、刀の修行か……俺も彼女の道場で学んでみようかな。いつでも来てくれとは言われているし。そろそろ刀の扱いもちゃんと学びたいと思っていたし。
しばらくして、深刻な問題が起こることもなくルリカさんの配信が終わる。無事に終わって良かった。そして、ためになって面白い配信だった。
「良い配信でしたね」
アイに言われ、俺は頷く。そして、今度は彼女のファッションショーを見る時だ。暇しないのは楽しくて良いね。
「それではヨータ様、私に似合う服をセレクトしてきましたので、心ゆくまで、お楽しみください!」
「ああ、楽しみだ」
アイの買ってきた服を見ながら、俺は自分の顔がゆるむのを感じていた。




