ルリカ視点、アイからの連絡
お昼前の第五層、集団キャンプから少し離れた場所。ハナヤギ会長に呼ばれて、私はここまでやって来た。重要な話らしい。気を引き締めて聞かなければ。
「ルリカさん、よく来てくれましたね」
「どのような用件でしょうか?」
「単刀直入に話しますわ。ルリカさん、ここから我々は別行動です」
「え……?」
いきなり別行動だと告げられ、困惑している私が居た。会長の横でメグさんは黙って腕を組んでいる。どうやらメグさんはこのことを知っている様子だ。しかし、何故ここで別行動を……?
「理由を聞かせてください」
「先程アイさんから連絡がありました。わたくしたちS級探索者の手を借りたいとのことです」
「会長とメグさんの手を借りたいと?」
「第八層にてワイバーン、第九層にて大ウツボが確認されたそうですの。どちらもAランク相当の魔物ですわ。それに加えて電波をジャミングする特殊な魔物も、大量に出現しているそうです。詳しいことは、ヨータさんが救助した伝令から詳しく聞けるでしょう」
「伝令……いや、それより。ジャミングというなら……アイさんはどうやって連絡を?」
「アイさんの力なら、こちらと連絡が取れるそうですの。なんとも、興味深い能力ですわね」
事情は、だいたい分かった。けれど、簡単には納得のできない自分が居た。だって、そうだろう。これじゃあまるで、お払い箱だ。私はヨータさんと連絡が取れた時点で用済みと、そう言われているような気がして、悔しい。
同時に思うのは、私では明らかに実力不足だということだ。Bランク探索者の私では、Aランクの魔物相手に充分な戦力とはならないだろう。そうでなくとも、会長やメグさんとは明らかな実力差がある。それがまた、悔しい。
「……会長、あなたたちがヨータさんを追うのなら、一つ聞かせてください」
「ええ、なんでも答えますわ」
「会長は、私やヨータさんを、どのように考えているんですか? 私たちは、ただ利用価値があるから。だから、近づいたということでしょうか?」
「利用価値……確かに、それはありましてよ」
やっぱり……分かっているつもりではあったけど、はっきりそうだと答えられると悲しくなる。最初にあった時から、会長がこちらを利用しようとしていることなんて分かっていたのにね。
「けれど、わたくしは、あなた方を一方的に利用しようとは考えていませんの。持ちつ持たれつ、Win-Winの関係を築きたいと、思っていますのよ」
「それは、利用価値で考えているという話と何か変わりますか?」
「変わるわけではありません。ただ、ルリカさん。わたくしは、今のあなたが考えているほど悪い人間ではないと信じてほしいのです」
信じてほしい。と言われても、それは少し難しいように感じられた。結局、人を利用価値で考えているというところは否定しないのだから。でも会長。私はそんなあなたにも、ここ数日の旅の中で友情を感じていたんですよ?
「会長……私たちの間には、友情は無かったのでしょうか?」
「友情、ですか? ルリカさんは変なことを聞きますのね?」
やっぱり……私の気持ちはますます暗くなる。結局は、彼女にとって、私やヨータさんは都合の良い駒でしか……。
「そんなもの、これから育んでいきたいと思っているに決まっているではありませんか?」
「やっぱりそうで……え?」
どういうことだろう? 呆けて会長の方を見ていると、彼女は肩をすくめた。
「ルリカさん、わたくしはそれほど善性の人間ではありませんし、友だちも選びます。こう言うと結構悪寄りの人間かもしれませんわね。けれど、だからこそ……!」
会長から力強い視線を向けられ、私はたじろぐ。物理的に一歩引いてしまった。
「だからこそ、ですの。わたくし、ビジネスパートナーとして認めた相手とは末長くお付き合いしたいと思っていますのよ。友情も深めていきたいと思うほどに!」
そう、言いきる会長に私は圧倒されていた。そして、なんとなく理解した。この人は相手を一方的に利用したいとは思っていない。あくまで対等な関係として、共に協力できる相手を求めているのだ。それは、共に利用できる相手と言い換えても良いのかもしれないが……。
「ルリカさん、わたくしはビジネスパートナーとして、あなたに頼みますわ。まず、この第五層の集団キャンプを守護すること。そうして、後からやって来るであろう上層からの伝令を迎え入れること。できますわね?」
「私は……」
「メグさんのお弟子さんもそろそろ第五層に到着しますわ。協力して、留守番を頼みましたわよ。信用してるのですから」
「……はい」
なんだか、上手く言いくるめられているような気もするけど……不思議とそこまで嫌な気持ちはしなかった。言葉だけでも、会長が私を信用していると言ってくれたから。今は、その言葉に応えよう……!
「今は、ここを任されました。今は、会長の言葉を信じます」
「ええ、あなたも、わたくしたちを信じていて。きっと、失望はさせませんわ」
会長の本心は私には分からない。けど、今だけでも信じるだけの価値はあると、私の直感が働いていた。




