おじさん、兄弟を救助する
俺は飛行しながら救助を待つ兄弟に近づいていく。建物に近づくほど、下の大水路に居座る魔物の姿がよく見えた。かなり大きなウツボだ。ワイバーン以上の体長だが、食べたら美味いかな?
「ヨータ様、大ウツボです。図体こそ立派ですが、あなたの敵ではありません」
「そうかい。じゃ、槍を出してくれ」
「承知いたしました」
アイから金色の槍を出してもらい、それを受け取る。すると、ウツボの方も動き出した。やつは水面から顔を出し、口を大きく開ける。なんだかワイバーンが火球を吐く前の予備動作によく似ているな? 嫌な予感がする。
次の瞬間ウツボの口から大量の水が吐き出された! まるでウォーターカッターだ。早めに回避動作をとっていたおかげで攻撃を食らわずにすんだが……自分の体が真っ二つになった姿を想像しゾッとする。
「ヨータ様、顔色が悪いですよ?」
「いや、あれをくらってたら俺、切断されてたんじゃないかな?」
「何バカなこと言ってるんですか。万が一直撃しても時空戦艦のバリアなら耐えられます」
「ほんとぉ……?」
アイが言うなら本当なんだろうが……ウォーターカッターって簡単にものを切断するイメージがあるからさ。やっぱ怖いっす。
「ヨータ様。ウツボごときにビビってないで、さっさとやっちゃってください」
「ごときって……ああ、分かったさ。応援しててくれ……!」
「ファイトです。ヨータ様」
大ウツボが吐く攻撃は連発できないようだ。なら、今のうちに攻撃してしまおう。俺は槍を構え、目標に向かって投擲する。やってやるぜ!
「くらいやがれっ!」
放たれた槍は大ウツボの頭を貫きながら着水。側にある建物の上まで届くほどの水しぶき。さらにダメ押しだ。徹底的にやってやるぞ。
「アイ、槍の射出だ」
「ええ、大ウツボを狙います」
空間が歪み、金色の槍が何本も射出される。それら全てが敵の体に突き刺さる。その状態でも尾の先が動こうとしていたので、凄まじい生命力だと感心する。ともあれ、終わってみれば完勝。やれやれだ。
俺はゆっくり目的の建物に向かって飛んでいく。よく見ると兄弟たちが目を丸くしているのが可笑しい。と、勝手に兄弟だと思っていたが実際はどうなのだろう。
「おーい、あんたたち無事ですかー!」
俺が声をかけると、彼らは嬉しそうな顔で親指を立ててくれた。彼らが無事という事実がとても嬉しい。
「俺も弟も無事だ。助かった」
「助かりました。でしょ兄さん」
「あ、ああ。助かりましただぜ」
ああ、彼らやっぱり兄弟だったのね。俺は建物の屋上に着地し、辺りを見る。彼ら以外に人の姿は無く、この建物から伸びる橋はどれも破壊されている。
たぶん大ウツボに道を壊されたのだろう。それで動くことができなくなり、救助を求めていたということか。納得だ。
「二人が無事で良かったです。どこか怪我はしていませんか? ポーションあります」
「いや、ポーションは大丈夫だ。それより、あんたはいったい……?」
「ああ……自己紹介してませんでしたね。俺は……」
ここで、名乗るべきか少し迷う。すでにルリカさんや会長たちには俺の正体を知られてはいるが、どうするか……身バレはできるだけ避けたいんだよな。俺も、自分の能力が桁違いのものだとは理解しているつもりだ。
「……カニタロウです」
迷った末、第五層で名乗った偽名を使うことにした。やはり、心から名前を開示しても良いと思える相手以外には本名は隠した方が良いだろう。あちらこちらでほいほい情報を開示していると、面倒なことになる未来が見えた。
「カニタロウね……了解だ。俺たちも深くは聞かねえ。とにかく助かった。ありがとう」
「兄共々、ありがとうございます」
「それで、俺はキンタ。弟の方はギンタだ。本当にピンチだった。それよりっ」
キンタは慌てた様子で「ちょっと聞いてくれっ」と言う。ほいほい、聞きますよ。
「ダンジョンの十層にある集団キャンプ。あそこが魔物の群れに囲まれてピンチなんだよ。なぜか昨日くらいから電波が届かなくなっちまったし、俺たちは伝令として第五層の集団キャンプまで向かってたんだが……」
「兄共々、あの大ウツボに襲われて動けなくなってたわけです。はい」
なるほど。二人の言っていることを信じるならば、ただならない状況のようだ。嘘をついているようには見えないし、俺は第十層まで急ぐべきかもしれない。
「第十層の集団キャンプが魔物の群れに囲まれているということは、すでに襲われてもいる?」
「ああ、俺たちがキャンプを出た時には、状況は拮抗していたが、あまり長くは持たないだろう。とにかくだ。俺たちは、すぐにでも第五層へ向かう。あんたも一緒に着てくれると心強いが……」
「いや、キンタさん。俺は十層に行ってみよう。戦闘のことなら、役に立てると思う」
「そうか……助かる……!」
それから、俺は飛行能力と怪力を使い、兄弟が別の建物へ移るのを助けた。兄弟は俺に頭を下げるとすぐその場から去っていく。あまり深くものを聞かれなかったのは助かる。それだけ、急いでいたということだろうか。
「アイ、捕まえたハチの魔物の解析は進んでいるかい?」
「いえ、解析中です。もう少し時間をください。それより」
「それより?」
「一般の機器では電波が繋がりませんが、私や、時空戦艦であれば外へ連絡を取ることが可能です」
「なるほど、つまり……」
「ええ、先ほど行かれた彼らには悪いですが、私たちの方で頼れる人物に連絡を取っておきましょう」
そういうことね。了解だ。




