おじさん、虫を捕まえる
翌朝、いよいよ第九層へやって来た。順調に進めば今日の内に第十層まで行けるだろう。アイの体を作るという目的が果たされれば帰るつもりでいるが、十層の集団キャンプの様子は見ておくべきか。ちょっと嫌な予感もするんだよな。杞憂に終われば良いんだが。
さて、この辺りの様子だけど、水上の都市遺跡とでも言えば良いのか。石造りの建物が並んでいる。そこに生活感はなく、少し寂しい。
あと、気になるものがもう一つ。
「アイさん、なんかハチみたいな魔物が飛んでるねぇ」
「キラービーの亜種のようですね。こちらには向かってこないようですが」
「こっちに向かってこないなら、一旦無視でも良いかもな。ただ、第九層に虫の魔物が出るなんて情報は無かったはずなんだが……」
だからこそ、妙ではある。けど、捕まえても何か分かるって訳ではないからなあ……いや、アイに調べてもらえば分かることもあるかもしれないな?
「……ヨータ様、敵が近づいてます」
「分かってる。一つ気配が近づいてきているね」
今、俺は建物の上に居る。この階層は建物から建物へ移りながら進んでいけば良いのだろうが、それを邪魔する魔物も出てくるわけで。そんな訳で戦闘だっ。張り切っていこう!
建物の壁を上るようにして現れたのは、タコの魔物。ロックオクトパスだったか。タコのように柔軟で石のように硬い体を持つ。ただし、動きは結構遅い。落ち着いて戦えば、問題の無い敵だ。
タコの魔物がゆっくりと俺の方へと近づいてくる。大丈夫、焦らずいこう。
「アイ、カニバサミを頼む」
「承知いたしました」
俺はカニバサミを受け取り、合体させる。閃光虫の素材で強化されたコイツなら、ロックオクトパスくらいは軽く切断できるはず。覚悟しろよ。タコヤロウッ。
魔物が伸ばしてきた触手を俺はハサミでチョッキン! 思った通りだ。簡単に切断できる。驚いて萎縮した様子の敵に対し、縮地で距離を詰める。そして、タコの胴体をチョッキンだ! 面白いように切れるぜっ。
タコの魔物は切断されても動こうとしていたが、ほどなくして完全に止まった。よしっ。危なげのない勝利だ。
「アイさんや、タコって擬態能力とかあったよな? こいつを使えばステルス装備とか作れるんじゃね?」
「残念ながら、ロックオクトパスの素材からステルス装備を作ることはできません。この魔物には擬態能力がありませんので」
「名前からして擬態能力がありそうだと思ったんだけどなあ。まあ、仕方ない。なら、こいつは食える?」
「ええ、火にかければ柔らかくなり、美味しく食べられますよ。艦内に保管しておきましょう」
「うん、頼むよ」
じゃ、タコの魔物を収納してもらって、このまま進んでいこう。建物から建物へと、先人が作ったであろう橋を渡っていく。時々タコの魔物が現れて、その度に落ち着いて倒していく。順調だね。
「そうだ。アイ、空を飛んでるハチの魔物。あれ捕まえて調べれば何か分かるかな?」
「何か、とはどのような?」
「このダンジョンに起きてる異常についてとか」
「なるほど。捕まえれば、分かることもあるかもしれません。それと、現時点で分かっていることがあります」
分かっていること? どんなことだろうか。気になるね。
「ヨータ様、スマホをご覧ください」
「スマホ……あっ! 圏外になってる! こいつは老神社製のモデルだぞっ!」
ダンジョンの発生した五年前からスマホも進化している。老神のスマホは充電要らずで一ヶ月使えるし、ダンジョンの中でだって安定して電波が繋がるんだ。それが圏外だとぅ!? ちょっと困るぞこれは。
「どうやら、あのハチの魔物が電波を妨害しているようです」
「そんなこと分かるのね。というか第五層のハチには、そんな能力無かったよな?」
「はい、通常のキラービーであれば、そのような能力はありません。しかし、あの亜種にはその力があるようですね」
「ふぅむ……」
集中して、この階層の気配を探ってみる。空を飛び回る小さな気配がいくつも点在しているようだ。全てを潰すのは骨が折れそうだな。
「とりあえず、ハチの魔物は一匹捕まえておくかー。アイ、調べもの頼むわ」
「承知いたしました。では、虫取り頑張ってください。なので、これを受け取ってください」
そう言ったアイが渡してきたのは虫取り網。え、こんなもの艦内にあったの?
「魔物の素材で簡単に作ってみました。後で使い心地も教えてください」
「なるほどね……ま、いいや。それじゃあ行ってくる」
「ヨータ様、グッドラック」
アイから応援されながら、ちょっとハチを取りに行ってくる。目的の魔物は簡単に捕まり、アイに虫取り網の感想を伝えつつ、捕まえた魔物を艦内に送る。その後、艦内に運ばれた魔物がどうなるかはアイ次第だ。ハチの気持ちになって想像すると少しゾッとした。
とりあえず、このまま第九層を進んでいこう。そう考えていた時。
「おおぉい! こっちだぁ! 助けてくれぇ!」
遠くから声がした。そちらを見ると、双眼鏡を構えた人物と、大声で叫び続ける人物の姿が見える。よく見ると、よく顔が似ているし、兄弟かな?
「助けてくれぇ! もしくは助けを呼んでくれぇ!」
兄弟はひときわ高い建物の上に居る。その下には、大型の魔物が見えた。なるほど、困っているようだな。見過ごせない。手を貸そう。




