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おじさん、強敵と出会う

 集団キャンプで手に入れた米はアイに収納してもらい、第五層から第六層へ向かっていた。その途中、どうやら前方の道に気配が止まっている。


「……アイ、どう思う?」

「おそらく人の気配かと、あなたを待っているのでしょうかね?」


 まさか、とは思うが。その可能性がないわけではない。野盗だろうか? ルリカさんは過去の配信で、ダンジョンには野盗まがいの探索者も存在すると話していた。野盗だったら嫌だなあ。


「なら、ヨータ様。道を外れて花畑の上を進みますか?」

「うーん、トラップアイビーがめんどくさいんだよなあ。弾けるとはいえ」

「ではシールドを強くして、周囲の植物を潰しながら進みましょうか?」

「それだと花が、かわいそうでしょー」


 ま、悩んでたって仕方ない。たぶん今の俺なら多少の相手はなんとかなる。このまま進んでみるか。いざとなれば戦艦に逃げ込めば良いしな。いつでも安全圏に逃げ込めるっていうのは精神的に楽で良い。


「とりあえず、行ってみようか」

「ヨータ様、お気をつけて」


 そうして進むことしばらく、先の地点で待っていたのは意外な人物だった。


「……る、ルリカさん!?」


 そこに居たのはルリカさんと、見知らぬ二人の女子。彼女たちはルリカさんのパーティメンバーだろうか? その関係性が気になる。たぶん敵ではないだろう。


 ルリカさんはペコリと頭を下げた。つられて俺も頭を下げる。顔を上げると、不振そうな顔をした茶髪の子の顔が見えた。ち、近っ!? ってか今の一瞬で近づいてきたのか! 思わず茶髪の子から飛び離れる。


「おー、最初見たときはどうかと思ったが、今の動きはスゲーな。あたしでも、あそこまでの跳躍はできねーぜ」

「メグさん。彼をからかうのは、お止めなさい。ともかく、今の身のこなしを見る限り、彼が噂のアクロバット侍で間違いなさそうですわね」


 アクロバット侍……ああ、最近ネットで噂になってる、俺のあだ名の一つか。しかし、彼女たちはいったい何者だ。少なくとも、メグと呼ばれた子は相当な手練れのようだが……どうしたものかな。


「君たち、目的は何かな……面倒は嫌いなんだが」


 面倒は嫌いだし、ルリカさんと敵対するようなことには、なりたくない。ともかく、状況が把握できないと動き方を決められない。


「……メグさんの行動。お詫びします。そうして、わたくしたちに自己紹介をさせてください。わたくしは……」


 そこまで話していた金髪の女の子と、茶髪の女の子が急に後ろを向いた。その理由は俺にも分かる。彼女たちの背後から猛スピードで迫ってくるものがある。嫌な気配をゾワリと感じた。


 ほどなくして、そいつは姿を現す。金色色に光る巨大な昆虫。五メートルはあるだろうか。クワガタみたいなアゴや、カブトみたいなツノがあり、蝶のような羽で羽ばたいている。まるで虫のキメラだ。正直、ちょっと気持ち悪い。


「あれは君たちの仲間かい?」

「まさか! 魔物の仲間は居ませんのよ」

「そうか、つまり共通の敵と考えて良いんだな」

「ええ、すみませんが話しの続きは後で、お願いしますわ」


 ルリカさんのパーティが臨戦態勢をとり、俺もカニバサミを構える。しかし、相手は空を飛んでいる。どうしたもんかな。とりあえず、攻撃してみるか。


「アイ、武器の射出だ」

「了解しました」


 時空の歪みから錆びた武器たちが射出される。が、その攻撃は簡単に弾かれた。昆虫キメラには効いていない。それどころか、今の攻撃でやつを怒らせてしまったようだ。まずいな。


 魔物のツノが光り、次の瞬間には光弾が俺へ迫る。目は反応していても、足の動きが間に合わない。バリアで耐えられるか!?


 魔物の攻撃が俺へ届くことはなかった。茶髪の子が一瞬で俺と光弾の間に入り、光弾を刀で弾いたのだ。か、かっけえ! 弾かれた光弾は昆虫キメラに直撃! やったか!?


「私のバリアなら今の攻撃は防げたのですが……」

「アイさん、しーっ」


 茶髪の子がかっこよく決めてくれたところなのに悪いでしょ。アイさんの今の小言が聞かれてないといいんだけど……。


「ちぃ、攻撃を弾いただけじゃダメかよっ」


 昆虫キメラには、まともなダメージが通っていない。というか、俺も流石に認識した。こいつは強敵だ。ゴブリンロードやワイバーン以上の敵。だとすればランクはA……いや、Sか?


 今、一番の問題は俺たちの攻撃がまるであの敵には効いていないということ。どうしたものか。頭を悩ませていると、敵は意外な行動に出た。


 昆虫キメラは俺たちへの興味を無くしたかのように、移動を始める。速いっ! しかも、その向かう先には――第五層の集団キャンプ!


「アイッ」

「砲の発射ですね」


 ああ、迷っている時間はない。目立とうが構うものか。一番大事なのは、集団キャンプへ、あの魔物を向かわせないことっ! きっと、あの魔物がキャンプへ着くと大変なことになる。やらせるものかよっ!


「砲の発射を、許可するっ!」


 俺の上空が歪み、次の瞬間――光線が放たれる。光の帯が、昆虫キメラを背後から貫く。今度こそやったか!?


 昆虫キメラが光を失いながら、地面に墜落していく。その後、大きな落下音がし、その土煙は、こちらまで届いた。


「……ひどい土煙だ。何も見えない」

「今がチャンスです。面倒に巻き込まれないうちに逃げましょう。ヨータ様」


 アイ、とんでもない提案をするね? しかし、今が逃げるチャンスであることは確かかもしれない。今のうちに時空戦艦の中へ逃げてしまえば、面倒事を避けられるだろう。だがな。


「断るよ、アイ。彼女たちは、俺と一緒に戦ってくれた。それに」

「それに、なんです?」

「俺が、ルリカさんと話をしたいんだ」

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