おじさん、腕相撲大会に参加する
第五層の集団キャンプが見えてきた。テントがいくつもあり、まるで遊牧民族の村みたいだ。人が集まっている場所だと思うと少し緊張するが、大丈夫。落ち着いていこう。
交換用の素材も結構ある。ここまで来るのに結構な数のハチの魔物をしばき倒した。それらの素材は結構高値で取引されるのだとか。あとは鞄に入れたポーションや、いくらかの現金とかもあるし、なんとかなるだろう。
「それではヨータ様、お気をつけて」
「大袈裟だよ。ちょっと米を手にいれてくるだけなんだから。でも、ありがとう」
アイには一旦黙っていてもらい、俺はテントの集まりに近づいていく。次第に賑やかな雰囲気になっていき、人々が何かを囲うように集まっているのが分かった。
「さーあ! 熱狂の腕相撲大会! 勝つのはどっちだあ!」
近づいてみて分かった。人々が集まる、その中央には大きな樽が置かれている。そこには、二人の筋肉質な男が居て、腕相撲をしていた。中々の迫力だな。あ、勝負あった。
「勝ったのはAランク探索者リキヤだあ! 流石はこの企画の主催者! 強い! 強すぎる!」
進行役兼レフェリーらしきお姉さんが褒め称える中、リキヤと呼ばれた探索者はマッスルポーズを決めている。なるほど、力自慢の探索者のようだ。今の俺と、どっちの方が強いだろう? そんなことを考える。流石にAランク探索者の方が上だろうか?
気になるが、このイベントに参加すると目立ちそうだ。俺は遠巻きに観客として参加しよう。と、思っていると。レフェリーのお姉さんから出てきた言葉に悩むことになる。
「優勝者には米十キロを進呈! この集合テントで交換の材料に使うのも良し、自分で食べちゃうのも良し、希望者には調理道具もあげちゃうぞー」
な、なにぃ! 米をくれるってか! どうしよう。そうだとしたら真剣に悩むぞ。イベントに参加すると少なからず目立つことにはなるが、米は欲しい。俺はいい加減米が食べたい!
食欲には勝てなかった。俺は手を上げAランク探索者のリキヤに挑戦する。まあ、鎧兜は身に付けてるし、身バレはしないだろう。大丈夫だよな?
「おーっと!? ここで新たな挑戦者の登場だあ! 鎧兜を着こんだ謎の侍! 彼の実力やいかに!?」
お姉さん元気良いなあ。ハキハキした声で紹介されると、ちょっと恥ずかしい。それに、ドキドキする。しかし、やると決めたのだ。絶対に米をゲットするぞ!
「それじゃあ、自己紹介をお願いします!」
あ、自己紹介!? やっぱそういうの必要!?
「……リングネームでも良いかい?」
「もちろん、オッケーですよ! 意外とシャイな侍さんでしょうか!」
「じゃあ、カニタロウで」
「了解です。カニタロウ!」
カニの鎧を着てるからね。名前のセンスについては何も言ってくれるな。即興で考えたんだ。うぅ~、こうなることが予想できてたら、もうちょいかっこいい名前を考えてたんだがなあ。
「それでは、カニタロウ選手対リキヤ選手の試合を始めます! 両者! 樽に肘をついてくださーい!」
お姉さんの言葉に合わせて周囲の人々が盛り上がる。俺も、緊張しつつも、気持ちが高まってきた。
「君が次の対戦相手か。よろしく」
「よろしくお願いします。リキヤさん」
「ああ、勝負だ。カニタロウ。負けないぞ!」
リキヤさんは見るからに筋骨粒々のパワータイプ。勝てるかどうかは分からない。相手と腕を組みながら、勝てますように、と祈る。そして、お姉さんの「試合開始!」の言葉と共に勝負が始まった。
「……け、決着ぅ!? し、信じられません!? 謎の侍、カニタロウ選手がリキヤ選手を瞬殺! 新たなチャンピオンの登場でしょうか!?」
信じられないほどにあっさりと、俺はAランク探索者との力比べに勝ってしまった。その後も、挑戦者が現れては俺の手で返り討ちにしていく。ちょっと、思ってた以上に今の俺は強いらしい。
一瞬、静まり返っていた人々は、次の瞬間わっと歓声を上げた。リキヤさんは「こりゃ負けた」と笑いながらも、拍手をしてくれて嬉しい。けど、ちょっと目立ちすぎたなこれは。
結局、俺は腕相撲大会の優勝者となり、米十キロを手に入れた。優勝者インタビューを無難にすませ、集合テントをそそくさと去ろうとしたところで、リキヤさんから「ちょっと良いかな」と声をかけられる。な、なんでしょうか?
「君のお陰で、興業は盛り上がった。ダンジョンってのはいつもピリピリしてるものだし、特に今の時期なんかは皆、内心穏やかではない。そんな時にはガス抜きが必要だと俺は思うんだ」
「なるほど」
「というわけで、俺は時々こうやって皆のガスを抜くためのイベントを開いている。また、ダンジョンで俺を見かけた時には、よろしくお願いするぞ」
「……分かりました。また会った時には、よろしくお願いします」
「じゃあな、カニタロウ」
「リキヤさんも元気で」
そんなやり取りの後、俺は集団キャンプを後にした。できれば調味料も集めたいところだったけど、米が手に入ったので良しとしておこう。あれ以上あそこに長居していたら、きっと目立ちすぎる。
集団キャンプ……良い雰囲気のところだったな。あの雰囲気は、リキヤさんが作っていたのだろう。また会った時には、彼に協力するのも良いかもしれない。そう思うのだった。




