おじさん、第五層をのんびり進む
翌日、俺はダンジョンの第五層を歩いている。辺りには花畑が広がり、鼻に届く香りは心地よい。
「アイさんや、この辺りはのどかだねえ」
「そうですね。あまり花に見とれすぎて転んだりしないように注意してください」
「流石にそんなことは無いと思うよ?」
と、言った側から何かが足に引っ掛かっるような感覚。何だ? 花畑からツタが伸びている!? これは、ルリカさんの過去動画で予習しているぞ。驚かせやがって。
「ヨータ様、トラップアイビーです」
「分かってる。問題ない」
花畑に隠れて足元を狙ってくるのは、本当に罠みたいだ。どうやら、俺をしばろうとしているようだな?
とはいえ、俺にはバリアがある。ツタは直接俺を縛ることはできずに弾かれた。けど、今の衝撃で危うく転びそうになったぞ。この恨み、はらさでおくべきか。
地面に弾かれたツタを俺は思い切り、足で引きちぎった! するとツタは驚いたように身を引いていく。ざまぁみやがれ。
「第五層はトラップアイビーの他、ハチの魔物、キラービーも出現します。ヨータ様はともかく、他の探索者にとっては、それなりの脅威かもしれませんね」
「景色はこんなに良いのになあ」
「それと、この層には探索者たちの集団キャンプが存在するようです。寄ってみますか?」
「集団キャンプねえ……」
なるべくなら目立つことは避けたいし、人の多い場所へ行くことも避けるべきなのかもしれないが……そうだな。人が集まるところとなれば、俺が今ほしいものも手に入る可能性があるんだよなあ。
「アイさん、集団キャンプなら、物々交換とかもやってるかな? 確か、ルリカさんの動画だと、そういうことも、この層ではやってたはずなんだよな」
「物々交換ですか? 何か欲しいものでも?」
「米が欲しくてなあ。それに、調味料とかも確保したいものがいくつか。実際にダンジョンまで来てみないと何が必要か分からないもんだよね」
「なるほど、そういうことでしたか。でしたら、行ってみる価値はあるでしょうね」
「うん! そうと決まれば次はこの層の集団キャンプを目指すとしようか」
なんて話をしていると、子犬ほどの大きさの虫が飛んでくるのが見えた。あれがキラービーかな。あのサイズの虫が飛んでくるのは流石にビビるな。
「ヨータ様、ハチに刺されるのは嫌でしょう。叩き落としちゃってください」
「いや、俺にはバリアがあるから平気だよね? 鎧もあるし」
「私が、虫は好きじゃないんです。さっさとやっちゃってください」
そうなの? アイさんも可愛いところあるんだね? 本人? には言わないでおくけども。ま、頼まれたならやりますかね。
「しゃあ、くらえっ」
俺は勢い良くカニバサミを振り、ハチの魔物を叩き落とす――ことはなく、からぶってしまった。うう……かっこ悪い。
「ワンアウトー」
「アイさん、それ言わないでくれる? 気にしてるんだから」
「すいません。これは野球ではありませんでしたね」
「そういう問題ではないんだが……」
ハチの魔物は攻撃を避けた後、大きく旋回しながら再びこちらに向かってくる。こ、今度こそ叩き落としてやるぞっ。ムキになってきた。
「ヨータ様。あなたの目は、その体と同様に強化されています。動体視力もです。あんな虫くらい、なんてことはありませんよ」
動体視力も? 確かに視力は良くなってるし、肉体もかなり強化されてる。であれば動体視力も強化されていても不思議ではないのか。な?
俺はこちらへ迫る魔物に集中する。今度こそ、今度こそ当ててやる。くらえっ。
「――ジャストミートだ!」
確かな手応えを感じながら、ハチの魔物を叩き落とす。しかし、どうしたもんかな。新たな課題が見えてきたぞ。
「今回の魔物は向こうから迫ってきてくれたから叩き落とせたけど、こちらに近寄らずに飛んでる敵はどうするかな?」
「ひとまず、ゴブリンの武器を射出する戦法で良いのでは?」
「射出戦法か……戦法自体は良いが、射出用の武器は新しいものを作った方が良いかもしれないな。上の層へ行けば敵も硬いやつが増えてくるだろうし」
と、まあ先のことを考えつつ、今は倒した魔物をアイに収納してもらう。同時に複数の問題が出てきた時はすぐに解決できそうなものから順番に終わらせていくのがコツだ。
そういうわけで、新しい武器の問題は後回し、今は米を手に入れるために集団キャンプへ向かうのが先だ。米、楽しみだなあ。
「……そうだ。アイさんは、集団キャンプでは静かにしてもらってても良いかい?」
「言われずとも、そうする予定でしたよ。私は気にせず、お米を入手してきてください」
悪いね。そうさせてもらうよ。一人でブツブツ喋ってるヤバいやつだとは思われたくないもの。
「その代わり、集団キャンプの近くまでは、いっぱいお話ししませんか? ヨータ様」
「良いよ。何について話す?」
「ここは無難に、しりとりなんてどうですか?」
しりとりって無難かなあ? それにAIのアイには勝てる気がしないけど。まあ、良いか。
「そんじゃ、しりとりするかー」
「流石ヨータ様、そうこなくては」
そうして、アイとしりとりを楽しみながら、俺はのんびりと第五層を進むのだった。




