おじさん、蟹の素材を集める
第二層から急いで移動し、現在は第三層。相変わらず木々の生い茂る森であるものの、こちらは地面がぬかるんでいる。ちょっと嫌な感じ。
第三層は中間地点に沼があり、第一層での湖の時みたいに迂回して進む必要があるのが少し面倒だ。
「さ、はりきって進んでいこうか。アイ」
「今日はこの階層も攻略してしまいますか?」
「いや、今日はこの層までの活動にしよう。集めたい物もあるし」
「承知いたしました。具体的には、何を集めますか?」
「マッドクラブの素材を集める」
マッドクラブは第三層に出現するカニの魔物だ。その殻はなかなかの強度を持っているのだとルリカさんが過去の配信で話していた。今の俺にとっては興味深い情報だ。
マッドクラブの素材を集め、時空戦艦のファクトリーで武具を作る。それが今回の目的。頑張るぞ!
第三層を進んでいくこと数分、さっそく目的の魔物を発見。小型犬ほどの大きさのカニは結構な迫力がある。とはいえ、ワイバーンなどに比べれば可愛いものだし、動きは鈍そうだ。こちらから近寄って警棒で叩く。
鈍い音が鳴り、手に硬い感触が伝わる。警棒の一撃には耐えられてしまった。確かに、なかなかの強度がありそうだ。一度、カニから飛び離れる。が、ぬかるんだ地形のせいで思ったよりは飛び離れることができない。厄介な。
「ヨータ様、ゴブリンロードと戦った時のことを思い出してください。身体にセーブをかけすぎです」
「つまり?」
「もっと思いっきりやれって話です。ヨータ様」
「なるほどね。思いっきりか」
強化されて、若返った体には慣れてきたつもりだったが、まだまだのようだ。俺はもっとこの体を上手くコントロールする必要がある。それは俺の明確な課題で、この冒険の楽しさだ。
「やってやるさ。全力で」
今の、アイとのやり取りの間に、カニの目と体はこちらを向いている。だが、怖くはないぞ。
「再アタックだ!」
カニに再び接近する。向こうは臨戦態勢を整えていて、こちらに反応しようとするが、のろい!
カニの殻に勢いよく警棒の一撃を叩き込む。二度目の攻撃だったからか、それとも思いっきりに攻撃したからか、その甲殻が粉砕される。強固な殻に守られたカニも今の一撃で絶命!
「やりましたね。ヨータ様」
「ああ、アイのアドバイスのお陰だよ」
「ふふっ。もっと褒めても良いのですよ?」
アイと話していると時々、相手のことがAIだと思えない時がある。というか、友達と話しているみたいで楽しいんだよね。寂しくないのも良い。
「アイ、マッドクラブを倉庫に収納してくれ」
「はい、この調子で素材を集めましょう」
カニを収納し、新たなカニを探す。見つける度にカニを叩いて倒す。時々、大型犬くらいにでかいカエルの魔物なんかも出てくるが、問題なく倒していく。楽勝だね。
第三層の魔物たちと戦いながら、体に力をいれる感覚を強く意識する。そのうちに、なんとなくコツを掴めてきた。先にゴブリンロードと戦っていたのが良かったのかもしれない。あの時に大木を持ち上げるイメージが掴めたからな。
そうこうしているうちに結構な数の素材が集まったように思う。ざっと五十体はカニを倒したかな? カエルの魔物も結構倒しているはずだ。加えてスライムに遭遇することもあったので、逃さずに倒しておいた。順調順調!
「アイさんや、このくらい魔物の素材を集めれば、何か作れるんじゃないかな?」
「もちろんです。武器も防具も十分に作れますよ」
「と、なれば今日の探索はこのくらいにしておこうか。時空戦艦への転送を頼む」
「ええ、充分にお休みください」
アイの言葉に会わせて周囲の景色が歪む。数秒後には戦艦の中に居た。ここは……バスルームの前か。
「沼の探索で少々汚れていますから、温泉に入るのがよろしいのではないでしょうか?」
「なるほど、気が利くね。アイ」
そこまで言って、俺はふと気付く。というか、凄く今さらだ。アイって俺が風呂に入っている間はどうしてるんだ?
「えっと、温泉に入るけど」
「はい、そうですね」
「今さらなんだけどさ、おっさんの裸なんか見るのは嫌じゃない?」
「今のヨータ様は若々しく健康的な体です。それに私はAIですから、人間の体を見ても、特に思うことはありません」
「いや、まあそうなんだけど。ちょっと恥ずかしいなあ」
「四の五の言わずにさっさと風呂に入ってください。ヨータ様が不潔にしているのは気になります」
「そこは気になるんだ!?」
ほんと、アイと話していると相手が本当は人間なんじゃないかと思ってしまう。まあ、不潔にしてると俺自身気になるし、ここは温泉に入るとしよう。
「ヨータ様が入浴している間、私は、黙っていてあげますら。気にせずにくつろいでください」
「そうさせてもらうよ」
それから、俺はしばらくバスルームでくつろいだ。温泉の湯は少し熱いくらいで気持ちが良い。湯の香りは良いし、それに、泡風呂や電気風呂、更にサウナや水風呂まであって、まさに極楽だった。




