第24話:孤高の追求者と、銀河系の勘違い
放課後の生徒会室。
西日に照らされた執務机に、執行部長のエリディブスが額を叩きつけていた。
「ゼノス……。君に任せたのは、新入生歓迎会のポスター貼りだと言ったはずだ。……なぜ、校舎の屋上に『命を懸けて友を募る』と書かれた巨大な断幕を掲げ、正門前で通りかかる生徒全員に真剣勝負を申し込んでいるんだい?」
エリディブスが、震える指先で机に積み上げられた苦情の山——「斬られた」「追われた」「目が合っただけで爆破された」という悲鳴の羅列——を指し示した。
窓際で夕陽を背負い、禍々しいオーラでカーテンを焦がしているゼノスが、ゆっくりと首を巡らせる。
「エリディブス。貴様は理解していない。紙片に書かれた文字など、雨に打たれれば消える虚飾。真の勧誘とは、剣と剣が交わる火花、魂が削れ合う瞬間にのみ結実する。……案ずるな。先ほど、アゼムの机に『今夜、裏山で待つ。逃げれば学園を灰にする』と招待状を置いてきた」
「ゼノス、それを世間では招待状とは呼ばない。……宣戦布告、あるいはただのテロ予告だ。規律の観点から言わせてもらえば、今すぐお前を地下牢に叩き込みたい」
部屋の隅で、没収したゼノスの愛刀を六重の重力結界に封じ込めていたパシュタロットが、吐き捨てるように言った。あまりの理不尽さに、彼の眼鏡の奥の瞳が、怒りで燃え上がっている。
そこに、ウリエンジェが静かに歩み寄った。彼はゼノスが書き残した「果し状」の写しを、まるで至高の芸術品でも見るかのように、うっとりと眺めている。
「驚嘆に値します。この『死してなお、我が友とならん。貴様の臓腑に我が志を刻みつけん』という一節……。友情を超越した、もはや宇宙の終焉を見据えた究極の求愛……。ゼノスの語彙は、ある種の破壊的な神話へと至っておられる」
「ウリエンジェ! 感心している場合じゃない! それ、ただの物騒な殺害予告だからね! 臓腑に何を刻むつもりだい!?」
エリディブスがついに顔を上げ、裏返った声を上げた。
そこへ、廊下を激しく駆ける足音が響き、勢いよく扉が開け放たれた。
「おい、エリディブス! ゼノスの奴が、中庭の噴水を改造して『血の池地獄』にしているぞ! ラハブレア先生が通ったら、今度こそこの学園が更地になる!」
飛び込んできたのは、顔面を蒼白にしたエメトセルクだった。彼の端正な制服には、ゼノスが「戦いの高揚を視覚化した」という、真っ赤な……けれどストロベリーの甘い香りがする怪しげな液体が、頭からべっとりと付いている。
「エメトセルク、落ち着け! それは血ではないのか!?」
「 ゼノスが言うには『戦士の魂を癒やす甘美な芳香』だそうだ! このベタベタした不快感が、奴にとっては至高の癒やしだというのか!? 理解を拒むぞ、私は!」
エメトセルクが叫びながら、ゼノスに詰め寄る。ゼノスは心底心外だというように眉を寄せ、長い銀髪をかき上げた。
「エメトセルク……。貴様まで何を言う。命を削り合い、魂の最奥を剥き出しにして殺し合う。……それ以上の『癒やし』など、この世のどこに存在しようか」
「あるよ! 購買の焼きそばパンの方が、よっぽど平和に癒やされるんだよ!」
エリディブスがついに頭を抱えて、再び机に沈んでいく。
「……いいだろう。ゼノス、貴様のその歪んだ友情論、私が規律の剣をもって、塵一つ残さず矯正してやる。ウリエンジェ、拘束呪文の用意を。パシュタロット、実力行使の許可を出す。……エリディブス、君は寝ていろ。これは、もはや学園運営ではなく……ただの害獣駆除だ」
エメトセルクが、指先を鋭く鳴らして漆黒の魔法陣を展開する。ゼノスはそれを視て、今日一番の輝かしい、けれど最高に不気味な笑みを浮かべた。
「ほう。……ようやくやる気になったか、エメトセルク。……愉しませてくれるのだろうな?」
「黙れ! 楽しいのはお前だけだと言っている!」
夕闇の生徒会室に、ド派手な魔力の衝突音と、ストロベリーの甘い香りが充満する。




