第15話:苺色の視界、独占中
放課後の中庭。ベンチには季節限定の苺パフェが二つ。アログリフがスプーンを手にしたまま、ちらりと視線を横に流す。
「……またやってる」
遠くでアゼムが何かを掲げ、エメトセルクが頭を押さえ、ヒュトロダエウスが笑っている。見慣れた光景。
その瞬間、ミトロンは当然みたいにアログリフの腕に絡んだ。
「ほんと好きだよね、ああいうの」
「別に好きじゃないし」
言いながら、もう一度だけそっちを見る。
ミトロンはそれを見て、くすっと笑った。
「へー? じゃあさ、見なくてよくない?」
ぐっと距離を詰める。
「今、アタシといるんだけど」
アログリフは一瞬だけ黙って、それから肩をすくめた。
「はいはい」
視線を戻して、パフェにスプーンを差し込む。
その瞬間――遠くで「完成だ!」という声と同時に、装置が爆ぜた。
甘ったるい匂いと一緒に、ピンク色の粉が中庭に広がる。巻き込まれたエメトセルクが無言で立ち尽くし、ヒュトロダエウスが笑い転げている。
「……説明を求めようか」
「これは見事に“苺味の概念”だけを――」
騒がしい。
アログリフは一瞬だけ目を細めて、それから興味を切ったみたいに視線を落とす。
ミトロンはその横顔を見て、満足そうに笑った。
「ほら」
アログリフがスプーンを差し出す。
「食べる?」
ミトロンはそれを見て、少しだけ首を傾げる。
「それさ、逆でしょ」
すっとスプーンを奪う。
一口すくって、そのままアログリフの口元へ。
「アログリフが食べるやつ」
自然な距離で差し出す。
「はい、あーん」
「……は?」
一瞬だけ間が空く。
けど、アログリフは何も言わずにそのまま口に運んだ。
「……甘」
「でしょ」
ミトロンは満足そうに頷いて、自分の分も一口食べる。
「やっぱさ、こういうのはちゃんとしたやつがいいよね」
遠くではまだアゼムが何か言っているけど、もう聞こえていないみたいに。
ミトロンはもう一度、腕を絡める。
今度はさっきより少しだけ強く。
「ねえ、次の限定も一緒に行こ」
間を置かずに言う。
アログリフはスプーンを口に運びながら、あっさり答えた。
「当たり前でしょ」
その一言で、ミトロンの口元がゆるむ。
中庭はまだ騒がしい。でもその全部が、ただの背景に落ちていく。
二人の間だけが、やけに静かで、甘かった。




