第106話『社会を生きていく上での必須スキル』
第106話『社会を生きていく上での必須スキル』
プレゼンテーション。略してプレゼン。自分が伝えたいことを、プレゼンテーションソフトウェア『Key Point』などのスライドと口頭での説明を用いて効果的に相手に伝える手段のこと。
プレゼンを上手くするためのコツは沢山ある。しかし、私は完成度の高いスライドを作れれば、発表――プレゼンテーション能力は二の次だと考えている。人間の情報吸収力は視覚の割合が最も高い。
堂々とした態度でスライド頼りにプレゼンすれば、そこそこ見られるものになる。したがって――
「この無駄な余白キモいわ」
「何で前のスライドとフォント違うん?」
「文字ちっちゃ!見にくっ!」
――いくら発表がしっかりしていても、基礎すら抑えていないスライドでは聞き手に向けて自分が伝えたいことも伝えられないのだ。
「にー」
――ニャルラもこの状況を理解しているのかな。
ニャルラは私が体育座している隙間に力づくで入り込もうとする。ゆっくりと膝を伸ばすと、太ももの上で安定したポジションを確保しようと藻掻きだした。
――うひぃぃぃぃ。
慌てて姿勢を胡坐に変えると、ようやく落ち着いたのかその上でくつろぎだした。君は私しか見えていないってこと分かってる?
――いかんいかん。サマトレに集中しないと。膝の上あっつ!重っ!
今いる人の中で発表が上手なのは私以外全員だと思っている。その中でもより聞き手に寄り添った発表を心がけているのは仲達先輩と沖谷君と安井君だろうか。しかし仲達先輩と安井君のスライドは、それはもう酷いものだった。
「俺スライド作りはいっつも誰かに任せとったわ。俺発表するけぇスライド作ってやーって言って」
「仲達先輩。俺もです」
2人はへらへら笑って自分のスライドを見る。なにわろとんねん。
「タニさんのスライドは、内容が・・・」
「ぺっら」
「ななお何笑っとん殺すぞ」
沖谷君のスライドはデザイン自体悪くなかったが、全体的に内容が薄かった。特に結論が弱すぎる。
――まとめが『17のゴールを解決して持続可能な未来を創ろう』とか・・・中学生レベルなんだけど。
SDGs――持続可能な開発目標。17のゴールと169のターゲットからなる世界共通の目標だ。ここまでは一般常識の範囲内である。17のゴールと169のターゲットって何?という質問は省略させていただく。奥が深すぎて話せば長くなるからね。決して全部完璧に覚えてないからとかじゃなくて。
「うわ俺と芹尾のスライド系統似とるなー」
「シンプルイズベストでしょ」
藤脇先輩と島永君のスライドはシンプルにまとまっており、内容も分かりやすかった。しかしこの2人は悪い意味で淡々と話すタイプだ。抑揚がなく、やや聞き取りにくさを感じる。
「さっちゃんと穂奈美ちゃんは・・・普通じゃな。見栄えは藤脇以上中身は藤脇と同等って感じ」
「俺基準にせんで」
「さっちゃんは無理じゃろー。採点基準に『頑張って発表した』っていう項目があればワンチャン・・・」
「う・・・そんなの私が一番よく分かってらぁ」
沖谷君の皮肉に私は頬を膨らませてそっぽを向く。人には得手不得手があるから仕方ないんだ。プレゼンなんて数をこなせば必然的に経験値が溜まっていくものだけど、まだそれを実行に起こす覚悟が足りていない。来年は頑張るから!
「穂奈美ちゃんのスライドが使えんの惜しすぎるじゃろ」
「え、菜々緒先輩のスライドの方がめっちゃいいじゃないですか」
スライドの出来栄えツートップはななちゃんと穂奈美ちゃんだった。どちらも申し分ないが、私はななちゃんのスライドの方が好きだと思う。彼女のスライドはシンプルかつグラフィカルで視認性が高く、イメージがつきにくい単語をイラストやアイコンを活用して図式化していた。穂奈美ちゃんのスライドもスタイリッシュで凄くいいと思う。
「ななちゃんごめんなー。俺のスライドがもう少しちゃんとしとったら・・・」
「ええよ。そういうのって慣れじゃけぇ」
結局、多数決で3番勝負の代表者はななちゃんに決定した。彼女の発表は・・・私みたいにガチガチではないが、緩みすぎるきらいがある。緊張を和らげるためか間延びした喋り方でプレゼンしがちだ。話し言葉を挟むのも直した方がいいだろう。
――いい意味でカジュアル。悪い意味で締まりがない。私は好きだけどね。ななちゃんのプレゼン。
「練習あるのみじゃな。よしななちゃん!発表時間まで特訓!」
「はーーい」
「返事が長い!」
「オメェうるせぇわ。あーもう弱い。全部弱いわ」
「まぁまぁまぁ。ななちゃん、スライドがちょっと弱くてアレだった沖谷君の代わりに頑張って」
隙あらばななちゃんをからかう沖谷君とあっさり挑発に乗るななちゃんの間に入って仲を取り持つ。そうしたら沖谷君からの嫌味が私にまで飛び火した。
「う、うっさい!戦力外なのは沖谷君だってそうじゃん!」
「何で全スライドに隠れスミックマがおるん!ふざけとるじゃろ」
「あーほらほら島永君の内容と沖谷君の内容やや被っているけど、沖谷君より深掘りしてるよー?モノクロで味気ないけど」
「俺にまで喧嘩売るとはいい度胸っすね」
悪意のあるコメントが飛び交っている中、KGLは女子メンバー2人が手作りのおかずを振る舞っていた。すげぇ。
「――ふーちゃんの唐揚げめっちゃうめぇ!マッキーの肉団子も!」
「・・・よーやるわ。普通に羨ましい」
安井君がチラッと私とななちゃんと穂奈美を見ると、沖谷君が腹立つ顔で手を顔の前に振った。
「コイツらがそんなことやれるワケねぇって!やす現実見んと!」
――ぐ・・・。この野郎!
「は?ねぇよそんなもん」
「用意してほしかったら火とアルミホイルとさつまいも持って来てください!」
「まさか焼きいも作ろーとしとる?」
私が歯噛みしている横で、ななちゃんと穂奈美ちゃんは泰然とした態度で跳ね返した。2人の台詞と仲達先輩のツッコミに堪らず吹き出す。
「せめて鮭とかだったらホイル焼きが出来るのになー」「そういう問題じゃなくね?」「やめろ!食いたくなってくるじゃろ」
――はーー。やっぱSIG最高。
なんとかお昼ご飯を食べ終えた私は、なるべく自然な動作になるようニャルラを胡坐の上から追い出て立ち上がる。私は気まずげに熊本先生が持ってきたクーラーボックスからこんにゃくゼリーを取り出した。
――この状況下では非常に出しにくいけど・・・折角熊本先生のお陰で溶けずに食べれるワケだし。
「あの・・・凍らせたゼリー持ってきました。良かったらどうぞ」
「天才!」
「さっちゃんナイス!」
「しっかりと俺らの好感度を上げていくぅ!」
好意8割、作為2割の差し入れ。冷凍庫にぶちこんだゼリーを配るだけで良い印象を持たれるのなら安いもんだ。2人が何も用意してないことに負い目を感じませんように・・・まぁななちゃんと穂奈美ちゃんなら平気か。
「にーにー」
――ごめん流石にニャルラのおやつは持ってきてないわ。
後ろ髪を引かれる思いで先生達にもゼリーをあげる。やめてそんな悲しそうな顔で見ないで。ニャルラにはまた今度カニかまでもあげよ。
「相変わらず小才が利きますね」
「いやこんにゃくゼリー程度でそんな・・・」
島永君の皮肉を苦笑いで流し、新たなこんにゃくゼリーの袋を掴む。そしてKGL方へ向かった。
「――お疲れ様です。これ凍らせたゼリーなんですけど・・・良かったら」
親切心100%の外面スマイルで配っていく。これで私の好感も少しは上がるだろうか。
「抜け目ねぇ・・・」「あざとっ」「真っ直ぐリーダーから行ったで」「いやでも全員の分用意してるところめっちゃええと思う」「さっちゃん優しいなー」「幸生先輩の美徳ですね」「おめーらもちょっとは見習えや」「黙れ」
――後ろうるせぇな。
SIGの『アイツやってんな』という目線を肌で感じる。媚ではなく処世術と言ってほしい。
「い、いや・・・俺は」
「あ・・・金子君もしかして知覚過敏でしたか?すみません・・・普通のやつも持ってくればよかった」
「天使か!大丈夫食べれる!」
2番勝負で善戦した金子君にゼリーをあげると天使呼ばわりされた。この人面白いな。
「シャーベットのおすそ分けとはやるじゃねぇかSIG・・・!」
「アイツ俺は絆されんみたいな顔しとるけど、しっかり効いとんな」
KGLリーダーの東先輩は鬼の形相で凍ったゼリーを手で溶かしていた。そうそう。半溶けでも美味しいんだよね。
――気に入っていただけたようでなによりだ。この人達も、話せば普通に良い人達なのかもしれない。
「ありがとう。唐揚げ食べる?」
同じ学年の倉嶋さんからは、ゼリーのお返しに手作りの唐揚げをもらった。1年生の牧内さんからは肉団子も。やったぜ。
「ありがとうございます。美味しいー!」
「・・・SIGの殺気エグいで?戻れるか?」
「全然平気です」
私だけ恩恵を得たことで、数名の嫉妬が背中に刺さる。副リーダの小田先輩に心配されるが、この程度の妬みなど痛くも痒くもなかった。
――さて最後は楽村君だけど・・・断られるかなぁ。
「楽村君も、良かったらぶどう味・・・」
SIGのプレゼンスキルランキング(あくまで幸生の評価)
発表スキル
1位 仲達先輩 2位 上延君 3位 沖谷君
スライド作り
1位 ななちゃん 2位 上延君 3位 私や1年女子




