第105話『思いが残る2番勝負』
第105話『思いが残る2番勝負』
「さーさー安井君対金子君のビーチバレー!ただいまの得点は3―1。KGLとSIGの予想対決は3-4となっております。それでは、第5ポイント開始!」
「金子君頑張ってー!」
「やすー!決めてけー!」
両チームの応援が最高潮に達する。私も怒られない程度に声援を送った。当然どちらの予想も『得点する』に選んでいる。これがKGLにとって負け試合だとしても、選択が邪道であったとしても――彼等の瞳は真夏の太陽並みに灼熱していた。
「――試合終了!5-1で安井君の勝利!予想対決は6-4で・・・2番勝負はチームSIG完勝!」
「「いよっしゃぁぁぁぁぁ!」」
勝利の雄叫びが空気を震わせる。KGLは悔しそうにしつつも、何やらすっきりした顔つきで私達に拍手を送っていた。
「ふーん。やるじゃん。あの佐古学にしては」
「勝負はこうでなくちゃな・・・次は殺す」
――いや全然ダメじゃん。まだ殺意ダダ漏れてたわ。
「さっちゃん!いえーい」
「い、いえー」
全員にハイタッチをしていた安井君が私にも求めてきたので、ぎこちない動作で手の平を叩き合う。私は眉をひそめ小声で文句を言った。
「何もサービ―スエース打たなくても良かったのに」
「それはほんまにごめん。あれはガチで身体が勝手に動いた」
安井君のあっけらかんと笑う姿を見て、肩の力が抜ける。4ポイント目、彼があからさまに反則するとは思わなかった私は素で驚いた。サーブミスとか・・・普通の失点だったら熊本先生に目をつけられることはなかったのに。
「さっちゃんも元運動部員じゃから分かると思うけど、最初から負けるって気持ちで試合に臨むのも、それに相手するのも普通に萎えるが」
「分かる」
「俺もちょっとだけあの空気にムカついとったから。あれはマジでないわ。でも、さっちゃんとの賭けがなきゃあのまま試合終わらしとったと思う」
そっかと返すのがやっとだった。安井君は私の心情に全く気づかずに、屈託のない笑顔でお礼を言う。
「さっちゃんのお陰でめっちゃ盛り上がったくね?ズルじゃけぇあんま大きな声で言えんけど」
安井君ともう1度ハイタッチをして、私は飲み物を取りにタープタープテントへと向かった。エアーソファーの上で寝ているニャルラの前に座って、水筒のお茶を飲む。
――私が安井君に賭けを持ちかけたのはただの気まぐれ。そうした方が面白くなると思ったから。
家だったら発言していた内容を心の中で呟くに留める。バレーコートを見て去年の2番勝負の内容を聞いた瞬間、脳裏にイメージが沸き起こった。私は数あるミステリー小説の中で、どんでん返しを謳う作品が好きだ。展開を紡ぐことができる立場にいるというのに、やらないのは勿体無い。
――歯車を狂わせた時の快感は、1度味わってしまうとやめられないんだよね・・・。
天邪鬼な部分が顔を出して嗤う。つまらない勝負が嫌なのは私も同じだ。誰の為になるのかとか全く考えていない。好き勝手引っ掻きまわしただけ。結局、自分はSIGの背中に隠れて無傷だ。KGLが私に抱く心象も印象も何も変わっちゃいない。
――悪魔みたいだな。自分の心が汚すぎて、安井君の笑顔も、感謝も・・・不快に感じてしまった。
あと1番勝負で圧勝して天狗になっているKGLの細長い鼻を明かしたかった。何もかも上手くいってハッピー。素直に喜びを享受しなよと言う私と、そんな顔するなら余計なことしなけりゃいいのにと蔑む私が心を潰しにかかる。
――気持ちイイ。気持ち悪い。最高。最低・・・。
「沖谷」
突然楽村君に呼び止められるが、今回は肩が跳ねるだけで済んだ。
「?」
「間違っとったらごめん。もしかして、沖谷と安井って・・・」
楽村君は言いにくそうに口をまごつかせる。それで大体のことを察してしまった。私は水筒をしまい、立ち上がって彼の顔を見る。
――やっぱり、私が安井君に指示を出したことがバレてる・・・かつてのクラスメイトは誤魔化せないか。
「あーーえっとそれは、そのぉ・・・皆には内緒にしていただけると助かります」
「・・・いつから?」
私の反応を肯定と捉えたのか、楽村君の表情がごっそりと抜け落ちる。声のトーンも初めて聴く低さだ。そ、そんな怒らなくても!
「えっと、8番勝負が始まる前から」
「だからいつ」
「え?さっきさっき」
「はぁ!?今日!?」
何故かすっごく驚かれた。微妙に会話が噛み合ってない気もするが、一旦話を進める。
「私から話を持ちかけたら、いいよーって」
「・・・へぇ」
非難の視線がザクザクと突き刺さる。これ以上彼の目を見ることに耐えられず、私は目を逸らしてゆっくりと後退した。
「俺じゃ・・・め・・・」
「ほ、ほら戻ろう!次の勝負はなーにかなー」
彼の声は波の音にかき消されて聞こえなかった。私はそのまま聞こえないフリをして皆のもとへと駆け出そうとする。
「・・・勝手に話終わらすな」
しかし、楽村君に後ろから肩を掴まれてしまった。どうやら彼の追及はまだ続くようで。
彼の怒りは最もだ。例え勝敗に直接関係のないズルをしたとても、卑怯は卑怯だ。責めたい気持ちは生まれるだろう。
――確かに、先程の状況を作り出したのは私だ。それでも彼に謝るのは違う気がする。もうしない?それも出来ない約束だしなー。
先に仕掛けたのはKGLの方。だからこっちも好き勝手してもいいなんて言い訳がましいことはしない。心のどこかでは予想対決での行いを正当化している自分がいるけれど。それでも――私は振り向いて厳しい目つきをする。
「もうこの話は終わったの。今ちょっとだけ反省していたところ。卑怯な手口だって罵られたとしても、私は――後悔なんてしないから」
「・・・!」
返事の代わりに、息をのむ音が聞こえた。肩に置かれた手に触れ、そっと引き剥がす。
――私は楽村君を怒らせてばかりだな・・・。ごめんなさい。
とりあえず謝るということが出来ない。謝罪の言葉すら言うのが怖い。彼は私の為を思って何かを伝えようとしてくれているというのに、それすらも突っぱねた。
「・・・こんな最低で何も変わっていない私のことを覚えてて・・・友達になってくれてありがとう」
笑顔を浮かべたかったけど、こういう時だけ普通の表情になってしまった。彼の横をすり抜けて、砂浜を足で踏む。『ごめんなさい』を『ありがとう』に置き換える。これは以前の私には無かった意識の改革だ。皆の元へと歩きながら『何も』とは言ったけど、『全然』のほうが正しいかもしれないと、我ながら思った。
(=^・・^=)
「えー3番勝負は昼食後に行う。タイトルは――『事前課題プレゼンテーション対決』内容は、各自作成したスライドを元に代表者を1名選び、発表してもらう。スライドの出来映えとプレゼン力がより高い方が勝利という・・・皆どうした?」
――え?事前課題?
竹村先生の説明に周囲の空気がざわつく。どうやら全員、サマトレの事前課題について聞かされた覚えがないようだ。私もそんなのやってないぞ。
「実は既に全員提出済なんだよね。プレゼンのテーマは『企業や団体が行っているSDGsへの取り組みについて』KGLの皆は先月」「えーーーーー!」
「SIGも先月頭に」「あれかーーーーー!」
竹村先生がとある授業で必要になったと言って、皆にこのテーマについてスライドを作成して欲しいと頼まれたのは先月の話だ。でもあれはメンバー全員が作ったハズだけど・・・。
「ここにいるメンバー以外も作ってたくないですか?」
「だってサマトレ参加者だけに作らせたらバレちゃうじゃん。未参加者のスライドも、今後有効的に使わせてもらうから大丈夫」
熊本先生は悪びれもせずに言ってのけた。か、可哀想・・・果たしてそれは本当に大丈夫なのか?
「審査員は俺と熊本先生と両チームのリーダーと副リーダー。スライドの完成度、プレゼン力、時間内に収められるかなど・・・総合的に見て判断するので、代表者は心してかかるように」
「3番勝負開始までは自由時間だから、各自好きに過ごしてね。さっきの時みたいに・・・今がサマトレってことを忘れないように」
8番勝負開始前、全員が自己紹介そっちのけで海水浴に夢中になっていたことについてしっかりとくぎを刺された。特にリーダーと副リーダーの渋面が凄い。そりゃそうか。
各自持参してきた昼飯を食べつつ、輪になって3番勝負の作戦会議をする。
「――まずは全員のスライド見てこーか」
「もうどんなん作ったのか忘れたわ」
――ななちゃん・・・。私の中でこの勝負における第一候補は貴女なんだけどな。
藤脇先輩が支給されたノートパソコンを置き、全員が見やすい位置になるよう誘導してくれる。
――プレゼンテーションか・・・ならこの勝負、私が出ることはないな。
「にー」
私が手作りのお弁当(捨てられる容器につめたやつ)を食べている横で、ニャルラも猫缶を食べ始めた。何回も思うけど・・・どこから持ってきた。そしてどうやって開けた。そのゴミどうやって捨てるんだ。




