一網打尽
公爵家の宴会場を出てしばし歩くと、裏庭が目に入った。ちなみに客に見せる正門側の庭は夜でもこの世界の技術により明るく照らされているため、美しい薔薇が咲き誇っているのがよく見える。
が、こちらの裏庭は夜会の客が間違えて迷い込まないようにあえて照明を消しているらしい。つまりは真っ暗だ。そろそろ、か。そう思い足を止めた。
「姉上?どうし…」
その瞬間背後から三人の人影が私に向かって飛びかかってきた。そして彼奴等は、伸ばした手でがしりと確かに掴んだ。
大きな丸太を。
「なっ…!?」
「何だこれ!?固いぞ!?」
あまり夜目が効くわけではないらしい。女人だと思って掴んだものが丸太だったともまだ分かっていないようだ。空蝉の術も知らぬ、その程度の能力で奇襲を仕掛けるとは馬鹿共め。ここはエイル公爵邸。つまりは私の庭だ。道具は揃っている。
瞬時に背後に回った私は、そのまま慌てている三人に向かって隠していた大網を投げつけた。
「うわっ!」
「何だ!?網か!?」
そして体勢を崩した彼奴等へ飛びかかって上からどすりと踏みつける。
「ぎゃあっ!」
「あ…いい…!」
「痛え!?」
誰だ今喜んだのは。とりあえず曲者が状況を理解していないうちに意識を刈り取り、網ごと縄で縛りつけた。ちなみに道具は全て庭に仕込んでおいた物だ。
「さて」
そう言うと私は呆然としていた人物を振り向いた。その人物は私が振り向くとびくりと肩を震わせた。
「あ…、姉上…?」
動揺しながらも私をまだそう呼ぶらしい。
「あ、あの、この者たちは一体…?それに、え?あなたは…?」
ゆらりと動き、あえてゆっくりと間を詰めるように一歩一歩近づく私になおも声を掛けてくる。
「姉上、ではないの、ですか…?」
後退りしながら言う人物を壁に追い詰め、そのまま私は壁をだんと叩く。
「貴様こそロティではなかろう」
「ひぃぃっ!」
脅す様に睨むと、ロティの姿を真似た何者かは悲鳴を上げた。
「ろ、ロティアーグですよ?見れば分かりませんか??」
「ほう。まだ正体を偽るか。まぁ良かろう。先にあ奴らを片付けよう」
そう言って私は指笛を吹いた。
その音を聞きつけた公爵邸の影たちが数名現れ、縛りつけられている三人を闇の奥へと引き取っていった。
「え?え?え?」
「今宵は宴だ。客人たちに無粋な音は聞かせたくないのでな。奥へと連れて行かせた」
ロティを名乗る曲者は動揺を隠せないようだったので、私は静かに説明してやった。
「つ、連れて行って何を…??」
「なに、色々とお喋りをしてもらうだけだ。少し…あちこちを剥がしたりはするかも知れぬがな」
奴らの意識が戻るのが楽しみだな、と付け加える。
「ひぃぃぃぃっ!ロティ!ロティですよ僕は!本当なんです!」
往生際の悪いことだ。まだ吐くつもりはないようだ。
このまま指の骨でも折っていくか。いやしかし、宴会場に騒ぎを気づかれるわけにはいかない。静かに事を済ませるか。そう思い、私は懐から小瓶を取り出すことにした。




