謎の衣装
さて。ガルシアとクロード様が共に去って行かれたため、この場には私と桃色娘の二人が残された。しかし先程も少し触れたが、此奴のこの珍妙な装束は一体なんなのだろうか。
「お主、その極彩色の衣装は何ゆえだ?」
桃色娘、いや今は虹色娘か。の、装束をじっと見つめながらたずねた。
私は流行とやらには疎い。だから分からないだけかとも思ったが、とはいえ周りの反応を見るに変わった彩であることは間違いないようだ。
「…わ、わたしだって最初変だなとは思ったわよ??でもゲームスチルと同じ妖精のドレスだったし、この国のセンスがこういうものなのかなと思ったし、そもそもこの世界なら何でもヒロイン補正でどうにかなるのかなと思ったのよ!」
私の質問に一気に捲し立てるかの様に謎の理屈を並べ出した桃色娘。
「なのに脳筋は虫呼ばわりだし、へっぽこは全く興味ないのが丸わかりだし、悪役令嬢はまぁそれらしい反応だからいいけど、もう意味わからないわ!」
猫を被るのは諦めたのか、桃色娘はそのまま更にぎゃあぎゃあと騒ぎ出す。
「ふむ。言っていることは全く分からぬが、肉でも食べるか?公爵家自慢の料理人だぞ」
「料理自慢にしても、肉って!ストレート過ぎじゃない!?」
騒ぐ理由はわからぬが、腹が空いているからかもしれぬ。そう思い私は片手を上げて近くにいた侍従に肉を要求した。肉は裏切らないからな。
「要らぬのか?」
「食べるわよ!」
仕事の早い侍従が素早く皿に盛った肉を渡してくれるのを桃色娘が受け取る。
「うっわ何これ!?柔らか!ソース美味しい!」
目を輝かせて肉を頬張る桃色娘。うむ、やはり間違いなかったようだ。
私の分も貰おうと再度侍従を呼ぼうとしたが、その瞬間さっと皿を出される。
「どうぞ、レディ」
「ルーク!」
私に皿を手渡すルークに驚きの声を上げる桃色娘。
「そうだったわ…。攻略対象なんだから当然この夜会にいるものよね…」
桃色娘はルークを睨みながらまたぶつぶつと呟く。こやつが時々言う攻略対象とはなんなのだろうか。
「キリルシュカは今日の主役に相応しい美しさだな。それにマーガレットは、孫にも衣装ってやつか」
私たちを見てはははと笑いながらもさらっと言うルーク。む、肉美味いな。
「だからなんであんたは私に対してゲーム通りのセリフなのよ…」
「ルーク。お代わりだ」
ぶつぶつ呟く桃色娘を気にせずに、私は肉のお代わりを要求することにした。
「喜んで、マイレディ」
素直に空の皿を受け取り、また料理を取りに行くルーク。
「食べるの早っ!って、なんで小間使いみたいになってるのよ??もしくは焼肉屋の定員なの!?一体何を目指してるのあいつは!?」
私たちのやりとりに疑問を覚えたらしく、再び騒ぎ出す桃色娘。
ルークの目指すところなど知る由もない。まあもしかすると小間使いの才に目覚めたのかもしれぬな。そんなことを考えているうちに、ルークが肉をふんだんに盛った皿を手に戻ってきた。
「礼を言おう」
感謝の意を伝えて私は皿を受け取る。
「以前も思ったんだが、肉が好きなんだな」
「好き…?好き嫌いはないが、美味いとは思うな」
ルークの質問に私は考えながら答えた。
そもそも食事を食べられるだけでもありがたいと思うが、そうだな。肉は美味い。
「感情を取り戻すには、たくさん食べさせるが有効か?いや、それは違うか…」
ぶつぶつと呟きながら考えている様子のルーク。
「ちょっとちょっと!よく考えたら何素直に食べてるのよ!一服盛られてるかもしれないわよ!?」
「おい!?なんだその失礼な発想は!?」
突然口を挟んできたマーガレットにルークが抗議した。
「毒なら幼少時より一通り飲んで慣らしてきたから効かぬ。故に盛られても問題ない」
私がそう言い、肉を食べると桃色娘とルークはなぜか息を呑んだ。
「き、貴族ってそうなの…??」
「いや、さすがにエイル公爵家はやり過ぎだろう…」
ひそひそとマーガレットとルークが話し合う。幼なじみなのだから、なんだかんだで仲が良いのだろうか。ふむ、やはり肉は美味い。
「弟もそうなの?って、あら??そういえばロティきゅんの姿が無いけど…」
言いながら桃色娘はきょろきょろと辺りを見回した。
「ロティならここにはいないぞ。まだ童ゆえ夜更かしができぬからな」
「夜更かしってまだ8時にもなってないわよ!?良い子なの??」
私の言葉に驚く桃色娘。ルークも同様だ。
まあロティは阿保だが、基本的に良い子ではある…か?今頃は歯磨きをして入眠準備でもしていることだろう。そんなことを考えてつつも、私は近くにきた侍従に空になった皿を渡した。
「おかわりはもういいのか?」
「ああ。食べすぎると身体が鈍るからな」
「いや、結構食べてたわよ??」
ルークに返答する私に、またやかましく横槍を入れる桃色娘。何にでも噛み付く子犬だな。
「マーガレットはデザートでも食べたらどうだ?」
「公爵邸のデザート…。そ、そうね!ちょっと選んでくるわ!」
ルークの言葉にいそいそと居なくなる桃色娘。やはり食いしん坊は此奴の方だろう。
「さて、うるさいのもいなくなったことだし…」
ちらりとこちらを見やるルーク。そしてその手をこちらに差し出してくる。
「腹ごなしに一曲いかがですか?レディ」
にこりと微笑みながら誘ってきた。
「ふむ、腹ごなしか。それもよかろう」
私は差し出されるままにその手を取ることにした。
じっとしているのも得意だが、腹ごなしには軽く動いた方が良いだろうしな。そのぐらい軽い気持ちで舞の誘いに乗った。
それがこの後の面倒くさい話に繋がるとも知らずに…。




