王太子、曰く
虹色の装束に身を包んだ桃色娘は私の前に来ると、にこりと微笑んで挨拶をした。
「本日はお招きくださりありがとうございます」
「お主、正気か?」
開口一番、私は桃色娘の正気を確かめた。それ程すざまじい彩色だったからである。
「失礼ね!…おほん。何かおかしなところでもありましたか?」
桃色娘は一瞬素の口調で怒ってきたが、すぐに取り繕ってきた。
そうだな、ここは学園ではないからな。いやしかしそれにしてもだ。
「おかしなところというか…その珍妙な彩りは何事だ?」
「…お、おかしいですか?」
私の言葉に桃色娘は周りをちらりと見て反応を伺う。
「いや、すげーな。タマムシみたいだな!」
ガルシアは目を輝かせて言った。ふむ、童の様なこやつには好評のようだ。
「む、むし…!?」
ガルシアの言葉に衝撃を受けたかのような桃色娘。ふむ、年頃の女子に虫は失礼だな。ここは年長者として教えてやるか。
「愚か者め。虫は失礼だぞ。もっと…こう、極楽鳥とかと言え」
「ご、ごく…!?」
私の言葉にも納得いかない様子の桃色娘。
その後クロード様をちらりと見やる。私とガルシアもそれに続く。
「え?私…かい?そうだね…とてもよく似合っていると思うよ」
そう仰りながら、にこりと微笑まれた。ふむ、いつもの落ち着いたクロード様だ。先程までのは一体なんだったのか。
「いや、雑だろその返事」
「失礼だぞガルシア!簡潔で良き誉め言葉ではないか!」
クロード様に向かって無礼にも文句を言うガルシアを私は嗜めた。
私たちの例えが失敗しているのだ。余計なことは言わない素晴らしきお言葉だろうに。これだから脳筋と言われるのだ。
「そもそもクロード様から直接お褒め頂くなど望外の喜びだろう」
「いや大袈裟な…って、あれ?もしかしてお前褒めてもらってないの?」
言いながらふと気づいたかのように私に尋ねるガルシア。
「お褒めいただけるような働きを今日はまだ何もしておらぬ」
そう。この後幾人かの側室候補をそれとなくご紹介してお褒めいただく算段はあるのだが、それはまだ早い。
「いや働きっていうかさ…。えー…」
言いながら胡乱な目でクロード様を見つめるガルシア。無礼な奴だなと思ったが、なぜか桃色娘までおなじ目つきでクロード様を見ていた。
「い、いや、分かってる。分かってはいるんだ。でも、いざ言おうとすると、その…」
なぜかクロード様がまるで弁明の様な言葉を並べ出された。
はて?もしや今日お会いしてからずっとそわそわされていたのと、何か関係がおありなのだろうか。
「クロード様?」
何か言い出しにくい事でもお有りなのかもしれぬと、じっとクロード様を見やる。
「うっ…。そ、その…きゅりー、いや、キリー」
「名前から噛むなよ」
緊張状態のクロード様にすかさず余計な一言を言うガルシア。こやつそろそろ叩くか。
「そ、その…」
こちらをじっと見つめ返されるクロード様。
お顔が赤い。脈も早くなっているご様子だ。酒を飲まれてはいなかったはずだがはて。そんなクロード様の次のお言葉を皆固唾を飲んで見守っていた。が…
「む、胸元ちょっと開きすぎじゃないかな?」
辺りに一瞬しん…とした静寂が訪れた。
次の瞬間、ガルシアがクロード様のお顔を殴ろうとしたためすぐさまその拳を受けて止める。
「貴様!謀反か!?」
「違う!これは友人として殴らなきゃいけないやつだろ!」
驚き叫んだ私に、すぐ様訳のわからぬ論を持ち出すガルシア。なぜか桃色娘も頷いている。
「すまないキリー…。今のは完全に私が悪かった。殴ってくれガルシア!」
当のクロード様が何故か拳を求めてきた。解せぬ。
「あの…クロード様、そういうご趣味ならば構いませぬが、せめて人目のない所での方がよろしいかと」
「いや違う!」
特殊なご嗜好だったのか…ならばその様なご要望に対応できる女子を探さなくてはと思いながらも声を掛けたが、即座に否定された。
「ああもう!ちょっとあっち行くぞ!来いクロード!」
「分かった…」
ガルシアの無礼な言葉にも素直に頷かれるクロード様。
「キリー、少し場を失礼するよ。その…さっきの言葉は忘れてくれ。本当に申し訳ない…」
クロード様はそう仰ると、先を歩くガルシアの後ろをよろよろと追随されて行った。何やら消耗されたご様子だが大丈夫だろうか。
「ヘタレすぎるでしょ…」
桃色娘がぽつりと謎の言葉を呟くが、何のことだかはよく分からなかった。




