夜会当日
そしてエイル公爵家主催による夜会の日がやってきた。今宵のためお母上様がご用意くださった緋色の装束に身を包み、クロード様より賜った装飾品を身につけ、クロード様に手を引いていただきながら会場に入った。そして夜会の始まりと共に、二人で舞を一指し披露する。それがバーレリア貴族の作法らしいので一通り行った。が、私は非常に落ち着かなかった。
皆の注目を集めるのも勿論だが、このひらひらした装束の下にはこるせっととやらを付けていて、これが息苦しさの元だった。こっそりいつもの鎖帷子を着ようとしたが、お母上様の手の者に見つかり没収されてしまった。
そしてさらには横にいらっしゃるクロード様はずっとそわそわしていて落ち着かぬご様子。よもや腹でも下されたのだろうか?
「あの…クロード様?」
「えっ!な、何かなキリー?」
話しかけてみると、なぜかびくっとなされたクロード様。
「先程から落ち着かぬご様子ですが、お腹の調子でも悪いのですか?」
「へ?お腹??いや、元気いっぱいだよ?」
私の言葉に驚きながらもご返答くださる。そうか。お健やかなら何よりだ。
「では、何か気になることでも?」
常にこの国の未来を考えられているお方だ。警備や何かで気になる部分でもあったのかもしれない。
「気になる…??う、うん。気に…なってるよ、もちろん」
クロード様はちらちらとこちらを見たり目を逸らしたりして答える。
やはりこの格好で護衛ができるか、むしろいざというときに足手纏いにならないか気になられるのだな。お優しいお方ゆえ直接言うのは憚られたのだろう。
「クロード様の御所望とあらばいつでもお脱ぎ致します」
私がそう言うと、クロード様は飲んでいらした飲み物を吹いた。
「げっほ…!き、キリー!?ま、まだそういうのは早いと思うんだ…!」
むせながらも慌てて否定されるクロード様。そして聞いていないような距離にいたのに、すかさず手拭いを持って現れた公爵家の使用人は優秀だ。
ふむ、そうか。どこに刺客が潜んでいるやも分からぬため、油断した振りを続けろとの仰せだな。成る程、この姿ならば囮として機能しよう。
「失礼しました。では引き続き守りに徹します」
「え?守り??い、いや、そこまで厳重じゃなくても、そ、そう!手くらいはなぁ…なんて」
なぜかあたふたとされながらお手を差し出されるクロード様。
手?何のお話だ?と思っていると、横からぬっとガルシアが現れる。
「なんかデジャヴ感じるんだよなー。ガキの頃も似たようなこと言ってなかったか?」
どうも呆れながら声をかけてきた様子だ。よく分からぬが、クロード様とのお話中に失礼なやつだな。
「お主、必要な時にはいないくせに余計な時には現れるな」
「え?ガルシアが必要な時があるのかい??」
私の言葉にクロード様が驚いて聞き返す。
「いやそりゃあるだろ!俺は役立つ男だぜ?」
「まぁ高いところの物を取ったり、脚立代わりにはなろうな」
得意げなガルシアに適当に返しておくことにした。
「ぼ、いや私は必要な時はある、のかな…?」
なぜかクロード様がご自身を指差し恐る恐る聞いてこられる。
「無論にございます。クロード様はこの国にとってなくてはならない存在ではありませぬか」
至極当然のことだ。と返事をしたが、まだ納得されぬご様子でこちらを見る。
「キリーは?キリーにとっては必要な時はあるのだろうか」
「私個人にですか?とんでもない!主の御手を煩わせるわけにはいきませぬ」
逆ならば大変光栄なことだが、クロード様に何かを頼むだなどとは恐れ多い。
「ひ、必要ない…??」
「クロード、落ち着け!そういう意味じゃ無い!」
なぜか打ちひしがれるクロード様を励ますガルシア。はて、何か返答を誤ってしまったか。と私は首を傾げる。
と、その時会場がざわめいた。
人々は振り向き入り口の方へと目を向けている。その視線を追っていくと、そこには桃色娘がいた。
「うわ…すげー!」
ガルシアが思わず感嘆の声を上げる。
そう、桃色娘は注目を集めながら歩いてきた。人々の視線を一身に受けて。
ーーーそれもそのはず。桃色娘は世にも珍しい虹色の装束に身を包んでいたのだった。




