ロティの助言?
私は空き教室を出た後、クロード様を探しに行った。
先程までは中等部と繋がっている庭園にいらっしゃったが、さすがにどこかに移動されただろうか?と思いながらも戻ると、その場に見慣れた黒いお髪が見えた。なぜかロティもそのまま一緒にいる。周りにいた生徒たちは帰ったのか、辺りは静かになっていた。
「クロード様」
「わあっ!」
その眼前に姿を見せると、クロード様は一瞬びくりと身じろぎをされたがすぐに私に手を伸ばし、たかと思うとぴたりと止まった。ちなみに驚きの声を上げたのは弟ロティだ。
「?」
「キ、キリー…。あの…」
何かを言い淀んでいらっしゃるようだが、察せれない。何だ?
「クロード様!もっと!上からです!」
ロティから謎の声かけがかかる。上?
「ロティ!駄目だ!ここには壁がない!」
「はっ…!しまった!」
クロード様とロティの二人が、何やら手違いがあったらしく騒ぎ出す。
なんだ?壁?壁が必要なのか?
「あの、壁が必要ならお造りしましょうか?クロード様の御命令とあらば一夜で城も築いて見せましょう」
「いや、いらない。気にしないでくれ。そうじゃない、そうじゃないんだ…!」
忠誠心が試されているのかと思い、申し出てみたが違ったらしい。即座に否定されて頭を抱えられてしまった。
「ベンチ!姉上!こちらの真白なる椅子にお座りください!」
ロティが庭園の椅子を見て何か閃いたらしく、私に着席を勧めてくる。しかしだ。
「いや、クロード様が立っていらっしゃるのだ。それを差し置き…」
何を非常識なことを言うんだ愚弟めが。
「いいから座るんだ、キリー。命令だ」
「御意」
クロード様の御命令に即座に従い着席する。意図は分からぬが否やはない。
「早っ!…さ、さあ!クロード様!背もたれに腕をかけて!」
ロティが再び何やらなんらかの助言を、恐れ多くもクロード様にしているらしい。
クロード様は椅子に腰掛ける私に近づき、ロティに言われるがままに背もたれにお手を伸ばされた。
「…?」
私は何をすれば良いのかわからず、クロード様を見上げてお言葉を待った。
「…っ!」
急激にお顔を赤くされ、ばっと私から距離を取るクロード様。
「ロティ!駄目だ!僕には刺激が強すぎる!」
「大丈夫です!慣れてください!」
振り向いてなぜかロティに助けをお求めになられたクロード様。はて、刺激とな?
「ロティ、お主よもやクロード様にまた何か盛ってなかろうな?」
「する訳ないでしょう!?次こそ殺されます!」
まさかと思ったがさすがに違うらしい。
「ごめん、ロティ。君にあらぬ疑いを…!よし!覚悟する!」
何かを決意されたご様子だ。クロード様はそう仰ると再度私に向き直り、お手を私の座る背もたれに掛けられた。
「キリー、私の女になってくれ」
「はい。既にこの身も心もクロード様のものです」
クロード様のお言葉に私はきっぱりと返事をした。
いまさら何の確認だ?やはり忠誠心を試されているのだろうか。まさかルークとのやり取りにより、謀反を疑われたか?
などと思った次の瞬間、クロード様が地面に突っ伏された。
「クロード様??」
しまった、何か返事の仕方を誤ったか?しかし意図が全く分からない。
ロティの方を見ても、地面に突っ伏すクロード様を前におろおろするばかりで何の役にも立ちそうにもない。
「むり…もうほんと絶対結婚する…」
クロード様は突っ伏されたままだが、近づくと呟きが聞こえてきた。ここは返事を間違える訳にはいかぬ。
「はい。妻にして下さいませ」
「!!!」
私が返事をすると、クロード様は顔を両手で覆ったままごろごろと地面を転げ出された。これは…?
「ロティ…」
「本当に何も飲ませてないし食べさせていません!」
胡乱な目で弟を見やったが、即座に否定される。本当に毒を盛ってはいないのか?
どうすれば良いのか皆目検討もつかぬ。こういう時ガルシアがいれば適当に収集をつけてくれるのだが…。いや待てよ。そういえばこれはロティの指示によるものだ。何かこの後も考えがあるのか?
そう思って再びロティに目を向けると、奴からはこちらに収集を求める不安げな視線とぶつかった。駄目だ使えぬ。仕方ない。とにかくお声をかけてみよう。
「クロード様、制服が汚れてしまいますよ。日も暮れてきますしそろそろ寮に帰りましょう?」
そっと手を出しながら言ってみる。
するとクロード様はこちらの手を見たが、私の手は使わずに一人で立ち上がられた。
「ありがとう。大丈夫だ。見苦しい姿を見せたね」
何ごともなかったかの様に微笑みながら制服をはたくクロード様。
そのお姿はいつも通りで、先程までのは幻覚だったのだろうか?と思わせる。
「では、帰りましょうか。ロティ、ではな」
中等部である弟は自宅に帰るのでここまでだ。そう思い別れを告げたが…
「ロティ、ありがとう。色々とまた相談がしたい。頼まれてくれるかい?」
「は、はい!勿論です!」
クロード様からお声がけされ慌てて返事をするロティ。
直接ご相談いただくとはなんと光栄な!相談が何かは分からぬが、今後失礼のない様にしかと確認しておかねば。
「では、行こうかキリー」
「はい」
そう微笑むクロード様は、先程のルークが起こした騒ぎの時よりも和らいで見えた。
ロティが何かご機嫌取りでもしたのだろうか?それであれば褒めてやらねばな。などと、気軽に考えながらクロード様と歩き出したのだった。




