騎士の宣言
ルークは跪き、こちらを見上げて赦しを乞うている。
赦し?何を赦せと?こやつが何をしたいのか、一から十までわからん。
「あの、姉上、確かこういう時は赦しますと言うのですよ」
先程から素の状態というか、まともな口調になっているロティがこそっと教えてきた。
「赦します?」
ロティの言うことを、私はよくわからぬままおうむ返しで口にした。
するとルークがいきなり立ち上がり、大声で宣誓し出した。
「我が名ルーク=マディアスの名において、レディのために身命を賭すことを誓う」
そう言うと、握ったままの私の手に再び口付けた。
きゃああああ!と再び周りが騒ぎだす。と、そこになぜか桃色の髪が割って入ってきた。
「ちょっとちょっとちょっと!何してるのよ!?」
「マーガレット?なんでお前が邪魔を?」
ルークの手を払い、そのままぐいと私とルークを引き剥がしてきたのは桃色娘だ。
「ポン…じゃない、クロード様!ぽかんとしてないで出番ですよ!」
なぜか桃色娘は、人だかりの中からクロード様を呼び出してきた。クロード様はかなり呆けたお顔をされていらっしゃるが大丈夫か?
「は…!」
正気に戻られたのか、クロード様はこちらを見て早足で近寄って来られた。
「ルーク。これはどういうことだ?」
「見ての通りです。誓いをたてました。マイレディに人として当然の権利を取り戻すと」
なぜか不快を顕に話しかけるクロード様。そんなクロード様に向かって、ルークはしれっと答える。
「当然の権利?」
「殿下、貴方は彼女の笑顔を最近いつ見ましたか?」
またよくわからぬことを真顔で言うルーク。
「笑顔…?」
ルークの分からぬ言葉に考え込むクロード様。そのお姿は真剣だ。
「他の女性にかまけて悲しい思いをさせているのでは?」
いや、全く持って構わんのだが。
「一人の女性を守り抜けないのなら、解放すべきだ」
「笑顔…キリーの笑顔…?」
先程の言葉にいまだ悩まれているのか、頭を抱えていらっしゃる。すでにルークの話はお耳に入られてはいないご様子だ。
「ちょっと!わけわからないこと言わないでよ!そもそもどう見ても表情筋なんて死んでるでしょうが!」
桃色娘が私を指差して言う。失礼な奴だな。
「だから俺はレディに感情を取り戻す。必要とあれば王家からも公爵家からも守り抜く!」
堂々と言い放つルークだが、話に全くついて行けない。王家から守るとは何だ?謀反なのか?
先程から無言のロティは話がわかっているのだろうかと見やるが、まさに勉学に詰まった時の様な顔をしている。うむ、これは理解していないな。
「ルーク、よく分からんが私を守る必要はない。私の身は主たるクロード様のものだ。上手に使っていただければそれでよい」
むしろ守られても邪魔だと手でルークを追い払う仕草をする。しっしっ
「貴女の身は貴女だけのものだ。大事にしてくれ」
「ああもう!訳わかんないわ!?ルーク!あんたのせいよ!」
「笑顔…キリーの笑顔…見たこと…?」
三者三様会話にならない様子だ。周りにいる生徒たちも、この訳のわからぬ状況を引きながら見ている。
ちなみにわが弟はどうすれば良いかわからず、先程からちらちらと此方を伺っている。そんな目で見られても無駄だ。姉にもわからんぞ。
「…とりあえず、帰るか?」
「いや、それはさすがに駄目でしょう…」
私の逃げの算段は弟によって引き止められた。が、次の瞬間なぜか桃色娘が私の手を握って宣った。
「とにかく一旦逃げるわよ!」
そう言うと私の手を引き走り出した。抵抗するのは簡単だったが、とりあえずこの場を去るのは私も吝かではなかったため促されるままに走ることにした。
「あ!こらマーガレット!」
走り出した私たちを追うルーク。
そして後には考え込むクロード様と、どうすれば良いかわからず立ち尽くすロティのみだった。
「あ、姉上〜…」




