悪役令嬢と辺境の騎士
「…あくまで、ちらっと聞いた噂なんだが…」
言いにくそうに目を逸らしながらも、ぽつりと口を開くルーク。
「殿下と…あまり仲が良くないのか?」
「クロード様と?…質問の意図がわからん。そもそも対等ではないのだから仲の良い悪いなどあるはずもないだろう」
クロード様は王となられるお方。そのお方を全力で御守り支えるのが私の役目だ。しかし私の言っていることが分からないといった顔を向けるルーク。
「婚約者だろう?」
「そうだ」
そういえばガルシアもこの前クロード様のことが好きなのかどうかと聞いてきたな。家同士の婚姻に感情など必要なかろうに。不思議な奴らだ。
「噂とはそのことか?私とクロード様が不仲だと?」
「…そうだ。先程など、他の女と話すから帰れと言っていたと…」
軽く拳を握りしめながら、ルークは呟くように言った。
言いにくそうにしていたのは私に気を遣っていたのだろうか。全く気にしていないのだが。いや、私よりもクロード様を慮ってか。王家の忠臣たるマディアスの家系だしな。しかしそれよりも学園内とはいえ、王太子様のことを噂するなど不敬な奴らめ。
「王太子としてとても立派なお方だが…その、以前も女性に不自由してないなどと言っていたし…あまり女癖がよくないのか?」
「失礼な言い方をするな!クロード様とて男子だ。健康で良いではないか」
言葉を濁そうとしながらも、結局無礼な言葉が出るルーク。とはいえ目に迷いが見てとれる。
ふむ、やはりこやつも王家に忠誠を誓っているのだろうか。そして裏切りるような発言はしたくないのか。…世界の敵というのは桃色娘の妄想だったのだろうか。
それにしても女と見れば見境ないとかでもあるまいに、ある程度の節度があればなんの問題もなかろう。むしろ元気で良いではないか。と、端的に伝える尚更困った様な顔をするルーク。
「…俺には理解できない。婚約者がいながらなんでそんな…」
ルークは険しい顔をしながら項垂れる。うじうじと生娘のようなことを言う奴だな。結局何が言いたいんだ。全く面倒な。
そして先程からずっと気まずそうに固まっているロティにちらりと目をやると、びくっとした後にさっと目を逸らされる。なんのかんのでまだ童だな。急な話にどんな顔をすれば良いかわからぬらしい。
「ご、誤解じゃないんですかね…?」
おそるおそるロティが声を出した。あからさまに目を逸らしたのが、また気まずく思ったのだろう。
「誤解?」
「ひっ!…いえ、あの、王太子様はそんなことするような方じゃないんじゃないかなぁ〜なんて…」
眼光鋭く睨んできたルークに慄きながらも一応発言した。弟よ。もう少し粘れい。
まぁ誤解であろうとなかろうと、だ。側室を探している私としては、他の女と仲良うされるのも全く構わないのだが。などと考えていると、ルークが私を真っ直ぐに見てきた。
「…諦めたような目で生きるな。もっと自分の気持ちを大事にしろ」
なんだ?ルークが訳のわからぬことを言い出したぞ。ロティに対してか?と思い横目でロティを見るが、首をふるふると横に振る。
「キリルシュカ。俺は貴女に言っている」
「へ」
何言ってるんだこやつは。
ロティから何か感染したのだろうか?そんな言い掛かりをつけられて、マディアス家と戦にならないだろうか。心配だ。今のうちに始末してしまうか…。などとぼんやり考えていると、ルークが私の手を取り跪く。
は?
「騎士として誓う。貴女にあるべき感情と、自由を取り戻すと」
そのまま私の手に口付けるルーク。
何が起きているのか判断できず、ロティの様に固まってしまった。なんだこれは。何がしたいんだこやつは。騎士?騎士とはなんぞや。
きゃあああああ!
猫とのやり取りから遠巻きに見ていた群衆が当の本人よりも先に声を上げた。何故か赤面している者が多数だ。
「…どうか赦しを、マイレディ」
見上げるルークの眼は、迷いを断ち切ったかのような顔をしていた。
ツッコミ不在にての惨状




