金色の姉弟による不穏な庭園
放課後。今日はこの後クロード様と夜会についての相談を少ししてみるか…と思い振り向いたが、それはクロード本人により防がれることとなる。
「クロード様、少々お話が…」
「ごめんキリー。今日はこれからマーガレットさんと話があるから、また明日でいいかな?」
お珍しいことだ。しかし私に断る権利などはない。
「かしこまりました」
素直に頷く私に、クロード様の背後にいた桃色娘が何やら慌てる。
「え、あの、約束があったなら別に…」
「いや、約束はしてない。気にするな」
遠慮する素振りを見せた桃色娘を私はきっぱりと言い跳ねた。
実際約束はしていない。それにクロード様のお好みをお聞きしたいなと思っていたので、もしも桃色娘がそれに当たるというのなら手間が省けた。あともうニ人くらいは揃えたいが、まあまたの機会でもよかろう。
「では失礼致します」
一礼して天井裏に去ろうとした時、さらに一言釘を刺される。
「悪いね。あ、一応言っておくけど、影にも潜まないようにね」
「御意」
やはりこのお方には全てお見通しか。仕方ない、大人しく外に出よう。
ーーーざわざわとした教室内を出て、私はそのまま庭園へと向かった。
庭園へ向かってきたのは、以前いた喋る猫を探す為だ。いや、この世界の猫は全て喋るのだったか?そういえばあれから他の猫に話しかけたことはなかった。
がささっ
ちょうどその時黒い猫が現れた。色からして以前の猫とは違うことは一目瞭然だったが、最近学園内で猫が増えてきたらしいからそのうちの一匹だろう。原因は餌をやる者が増えたからと言われているが、エルンスト先生の実験が関与しているのではとも疑っている。
まあとにかく話しかけてみるか。
「おい、ねこよ」
にゃーん
「これ、きちんと返事をせい。よもやお主喋れぬのか?」
にぃぃ…
「聞こえているなら返事をせい。名は何と言う?」
そのまましばらく話しかけたが返事はなかった。なぜだ?やはり話せる猫とそうでない猫がいるのか?…そう考えていた時、背後から近づく気配がした。
「姉上、まさかその猫は使い魔ですか?」
「ロティか。そうではないが、会話を試みている」
何やらわくわくした顔で弟が話しかけてきた。この先の庭園は中等部とも繋がっていたなと思い出す。
「漆黒の獣よ…!その純然たる黒き耳にて我が意を聞け!」
「そうだ!名を名乗れい!」
にゃーん
猫はゴロゴロとくつろぎ、身体をのばしている。こやつ、無視をしている…!
「ふっ…あくまで気まぐれ、依頼は聞いてから、と言うことか?」
む、ロティが猫に向かって訳のわからぬことを言い始めた。依頼とは何の話だ?何やらまた勝手に盛り上がり出したかこやつめ。
「よかろう!この腕を解放しても今の態度を保っていられるか…!?」
いや、その包帯は外せないのではなかったのか。と思っていると、また背後から近づいてくる気配があった。
「こんなところで何を騒いでるんだ…。周りが困っているぞ」
呆れた顔をしたルークが注意をしてきた。
確かに周りの生徒たちには随分前から引いて見られていた。ロティが来てからは、更にみな遠のいて行ったのも感じていた。まあ問題はないが。
「猫が喋らないかと思ってな」
「いや、猫は喋らないだろう」
間髪入れずにルークが答えた。何?まさか…
「喋らない猫が多数…なのか?」
「いや、喋らない猫しかいないだろう」
ルークは意味がわからないと言った顔で答えた。
「ふっ…常人には理解出来ぬことなのですよ。その様な問答は無意味なり!」
そこへロティが割り込んできて身体を斜めにし、頭が痛いかのように手で押さえながらも笑って叫び出した。
「…この子は?」
そうか、ルークは会ったことはなかったかもしれない。少し困った目でこちらを見てきた。
「我が名に意味などない!所詮は仮初の器!罪に塗れたこの身は…」
「弟のロティアーグ=エイルだ」
訳のわからぬことを言って騒いでるロティを手で制し、その意味などないという名を教えた。
「弟?つまり公爵家の…?」
「嫡男に、なる、な」
そう言われると不安になってきた。お父上様はいずれ治ると仰るが、それまで周りが待ってくれるだろうか?
「姉も弟も随分と…んん、まぁ、うん。名門故に変わった子育てをされているのかもしれないな」
む?今私のことまで含めたか?そう問い詰めようとした次の瞬間、
「それより…さっきそこで噂を聞いたんだが…」
急に話題を変えてきたルーク。誤魔化そうとしているのだろうか。そう思ったが、そういう雰囲気でもなかった。
「噂?」
「その…少し聞いただけなんだが…」
ーーーそして告げられた噂がこの先嵐を呼ぶことになるとは、この時は思ってもいなかった。




