鍋と狩り
「王都は綺麗過ぎるって…そもそも生まれも育ちも王都なのでは?」
ルークが首を傾げながらも私に問う。そうか、今生ではそうだったな。前世の記憶があるせいか、王都は何年経ても違和感ばかりで落ち着かぬのだが。
「まぁ…王都が綺麗すぎるなら、マディアス領は田舎で落ち着く、のかな?」
言いながら腑に落ちなそうな顔をするルーク。しかし田舎か….大方の獣を狩れるなら良いな。
「やはりぜひ一度行ってみたいなマディアス領に。狩った獲物で鍋も食べたい」
「鍋」
私の言葉になぜかぽかんとするルーク。なぜだ?鍋は美味しいだろう。
「師匠そういうの好きだよな。前に山で狩った猪を捌き出した時はびびったわ」
「牡丹鍋は美味かっただろう?」
「牡丹鍋!」
呆けていたかと思いきや、私とガルシアとの会話にいきなり食いついてきた。
そういえば前に猫がなんか好物がどうとか言うておったような…。そういえばあの猫はどうしているのだろうか。また情報を聞きに行きたいな。
「牡丹鍋…好きなのか?」
「ああ。あれは美味い。兎や鳥などとはまた違った旨みがある」
なぜか恐る恐る聞いてくるルークに答える。
「そうなんだ!臭いんじゃないかと言う奴がいるがそんなことないし、油もさらさらしていて食べやすい」
「女性も食べやすいと思うのだが、王都では全然見ないな。いや、鍋自体あまり見ないのだが」
そういえばスープ料理はあれど、鍋らしい鍋はない。食文化の違いだろうか。まぁ前世では基本的に草の根をかじって育ってきたので良くは分からない。
「王都にも鍋料理の店が一軒だけあるんだ。良かったら今度行かないか?」
「なんと!それは是非…」
「待った待った!」
盛り上がってきた私たちを止めるガルシア。何だうるさいやつめ。
「それ、絶対クロードに怒られるからやめとけ!先輩も、こいつこれでも王太子の婚約者なんで」
「あ」
ガルシアの言葉にはっとなるルーク。クロード様はそんな御心の狭いお方ではなかろうに。
「お主こそここに誘ったではないか。違いはなかろう」
「いや、ここは校内だし。そもそも鍛錬は別っていうか、何より女として見てないから有りと言うか…」
何か誤魔化そうとしながらも失礼なことを言ってないかこやつ。
「いや、俺の配慮がなかった。今のは忘れてくれ」
ルークが頬をかきながら撤回する。そうか、忘れてほしいのか…。鍋…。
じっ…と見ていると、ばつが悪そうにルークとガルシアが顔を見合わせる。しばらく沈黙が流れた後、ルークがため息をつきながら言った。
「じゃあ今度調理室で鍋を作ろう。それなら校内だし、ガルシア君も来ればデートではないだろう?」
「ならばその前に獲物も狩りに行こう!学園の所有する山ならば学園内だろう?」
ルークの提案に私が乗り、反対していたガルシアを振り向いて見た。
「うん…まあ、そうか?」
よし。こやつはあまり頭が良くない。あとひと押しでいけるな。
「うむ。では狩り勝負だな」
「狩り勝負!いいな!」
私の言葉に即座にガルシアが乗ってきた。ばかめ。お主が勝負と名のつくことが好きなのは承知済みだ。
「いいのか…?うん、まあいいか」
ガルシアの単純さに首を傾げながらも納得するルーク。流されやすいのだろうか。
とにはかくにも、こうして後日行われる三人の狩り勝負が決まったのだった。




