敬愛と恋愛
「くっそー!なんであの手この手で負けるんだー!」
悔しそうに演習場の床にしゃがみ込みながら叫ぶガルシア。
「目に見えている物だけで考えるな。五感すべてを研ぎ澄ませろ。立て」
「五感…」
ガルシアは素直に立ち上がり考え出した。ふむ。
「まずは目を瞑れ」
「こうか?次は?」
やはり素直に目を瞑るガルシア。まったく。
「次はだなー…」
私はそのまま喋りながらゆっくりと近づき、おもむろに剣の柄で腹を殴る。
ガンッ!
「いてっ!いきなり殴るなよ!?」
「そういうところがいかんのだ。素直すぎる。あといちいち騒ぐな。動揺するな」
腹を押さえて抗議するが、私によってさらに説教されるガルシア。全く持って未熟なやつよ。精神を鍛える方が先かもな。
しかし油断している腹を叩いたはずなのに硬かったな。身体作りはできているのだから余計に惜しい。今度また滝にでも連れて行くか。
「確かに師匠はいつも冷静だよなー…。同じ幼なじみでもクロードの方がまだ分かりやすいし。…っていうか気になってたんだけどさ」
言いながらこちらをじっと見つめてくる。
「何だ?気になるなら聞いてみるがいい」
歯切れの悪い此奴も珍しいな。私がそう言うと、やや考えた後にガルシアが口を開く。
「師匠さ、クロードのこと好きなのか?」
「無論だ。主人として尊敬している」
あのお方は天下人としての器をお持ちだ。今はまだお若いが、直に良き王となられよう。
「いや、そうじゃなくて!うーん…まぁ俺も分かんないんだけどさ、こう…異性として?と言うか」
言葉を探しあぐねている様子のガルシア。うんうん唸っている。
「異性として?まぁ、たくさん御子を産めたらよいなとは思うが」
「産め…!?いや、率直すぎじゃないか!?」
やや顔を赤くして引き気味で叫ばれた。何がいいたいんだこやつは。
「その点を考えると側室はある程度人数がいた方が良いと思うのだ。一夫一妻制ではあるが、側室を作ってはいけないという法が無いのはそのためだろう」
お家のためには沢山子がいた方が安心だからな。
「…お前、それクロードに言わない方がいいぞ」
頭を押さえながらため息をつくガルシア。む、先程痛めたか?
ふむ、そういえばクロード様のお好みを此奴なら知っているかもしれぬな。こういうのは男同士の方が話しやすいだろうしな。
「今度の夜会にクロード様の好きそうな女子を用意したいのだが、お主も手伝…」
「ぜってぇ手伝わない!!」
なぜか喰い気味で断られた。が、すぐにその理由に思い当たった。
そういえばこやつは以前、高位貴族なのに婚約者もいないと友人に揶揄われていたな。そうだな、可哀想な奴だったんだ…。
「そうか、すまない。酷なことを申した」
「いや待て!その憐れみの目をやめろ!多分考えてることとは違うから!」
更に声を上げて否定をするガルシア。必死か。
しかし、こういう人間の心の機微に疎いのが私に足りないところだな。もっとよく学んでみよう。
「よし、ガルシア。茶でも飲みに行こう。たまには奢ってやるぞ」
「だーかーら!憐れむのをやめろ!」
ぎゃあぎゃあと騒ぐガルシアを掴み、引き摺るようにして演習場の出口へと向かう。そのまま剣を戻そうとしたところ、こちらへ向かってくる気配を感じた。
この足音をなるべくさせない歩き方は…
「ん?何だ、今日の演習場は二人しかいないのか」
入り口から演習場を見渡し、ぽつりと言ったのはルーク=マディアスだった。




