バーレリア城下町
そして週末。先日中庭で交わした約束通り、桃色娘を連れ立って城下を訪れていた。ちなみに勿論制服ではなく私服でだ。私も桃色娘も動き易く、浮かない程度の衣を纏っている。いわゆる町娘の様な装いだ。
バーレリアの城下町は中々に賑わっていて、人通りも多い。国の危機が近づいているとはいえ、変わらず国民たちが呑気に暮らしているのは平和ぼけなのかそれとも王家への信頼故か。うむ、クロード様の手腕が良いのだな。
ともあれ聖なる乙女の騒ぎなんて無かったかのようにいつも通りの活気だ。他国との流通も盛んなままで、食物や細工品などの出店があちこちに開かれている。客もいつものように並んで購入している。それらに先程から桃色娘も童のように目を輝かせて見回していた。
「ここがバーレリアの城下町なのね…!当たり前だけどゲームより広いわ!さっすが王都!あ!あの噴水は見たことある!デートイベントで行く場所だわ!お約束のお色気スチルが良いのよね!」
きゃあきゃあと騒ぐ様は完全におのぼりさんである。言っていることは相変わらず半分もわからぬのだが。まあこの調子なら一人でも楽しそうだな。目的の武器工房は通り一つ向こうのはずだ。予定通り単独行動に移るか。
「では武器工房に行ってくる。その辺でも見て回っていろ」
「えぇ!?まだ午前中だから来ないわよ?ルークはいつも土の曜日の午前は鍛錬をしているはずだもの」
…やけに詳しいな。やはり今も親しいのか、それとも尾行の成果なのか。どうにも計り知れないところのある娘だ。しかし、まてよ。最初から知っていたなら私たちはなぜ午前からきたのか。
「ちょっとくらい街を楽しみましょうよ!私ミラクルスペシャルバーレリアグレースフルクレープ食べてみたかったのよ!」
「みら…?なんだ?」
こやつ今何と言った?呪文か何かか?
動揺している私の腕をぐいぐい引っ張る桃色娘。とは言えこやつに引っ張られた所で私の体はびくともしないが。
「ぐぬぬ…!ぬええ!?…意外と体幹すごいわね?そんな設定あったかしら?」
私の腕を引っ張らんとして、おろおろとする様が少し哀れではある。ふむ、時間もあるし仕方あるまい。私は溜息を吐きながら応えた。
「まぁ少しくらいなら良かろう。その、みら…なんとか?はどこにあるのだ?」
私がそう言うと、桃色娘は喜色満面で頷いた。笑顔がやたらと眩しい。
「うんうん!こっちこっち!広場の方にあるはずなのよ…!」
私はそのまま桃色娘が嬉しそうに案内する方へと歩き出す。そういえばこやつも留学したばかりで友人がいなかったのかも知れぬな。まぁ少しくらい付き合ってやるか。手は離して欲しいが。
何やら物陰から覗いているような気配もあるが、特に何をするわけでもなさそうだから放っておこう。桃色娘があまりにうるさいから行き交う人々にちらちらと見られてはいる。恐らくはそれが原因だろう。気にせずその場を後にした。
「…なんで悪役令嬢とヒロインが仲良しに??」
それは聞こえるか聞こえないかくらいの声量で、ぽつりと呟かれた。
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