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猫再び

 煙騒ぎにより午後の講義が中止になったため、桃色娘と共に学園内の中庭に来ていた。以前桃色娘がエルンスト先生に取り上げられた猫を探すためだ。よくはわからぬが、あれから学園内で飼われているあの猫が重要な情報を握っているらしい。


「いつもは誰かしらに囲まれていて話しかけられないけど、今なら煙騒ぎのおかげで誰もいないわ!」

「話しかけるとな」

 猫に話しかけてどうするのだろうか。とは思いつつも、騒ぎにより殆ど人がいないのも事実だ。煙の原因が分からないため、大半の生徒は寮に戻っている。まぁ原因は私なのだが。現在学園の裁量権をお持ちのクロード様には煙玉のせいだと報告しているため、適当き誤魔化しておいてくれるらしい。ご迷惑をおかけしてしまった。


「ちょっと私あっちの方を見てくるから、この辺探してて!」

「承知した」

 お主こそ被っていた猫はどうした。桃色娘はぞんざいな態度で指示を出して来たが、異論はないため従うことにした。一人で探す方が効率は良いからだ。


 そのまま中庭を歩いていると、茂みからがさがさと猫が現れた。いや、猫…か?探していたのは痩せ細りがりがりだった猫のはずだが、目の前にいるのは座布団のような猫である。


「いや、でも模様はこんな感じだった…か?しかし短期間で座布団になるものか…?」

「座布団とは失礼な」

 不思議に思いしげしげと眺めていると、声が聞こえた。即座に辺りを見回したが、気配が分からない…だと?


「いや、私にゃ。猫だにゃー」

 なんと声の主は猫だと主張している。そういえば確認した事はなかったが、もしやこの世界の猫は喋るのだろうか?


「お主…喋るのか?」

「そうにゃ。何か聞きたいことはあるかにゃ?」

 前足を片方上げながら尋ね返してきた。やはり猫は喋るらしい。今まで猫に話しかけたことがなかったから知らなかった…。常識がないのは桃色娘ではなく私だったのか…!


「聞きたいことはないのかにゃ?以前助けてもらったお礼に何でも答えるにゃ」

「む…ちょっと待ってくれ。そうだな…」

 桃色娘の戯言だと思ってあまり考えていなかった。私は腕を組み首を捻って考えてみた。

 聞きたいこと…か。猫にわかること…。一応聞いてみるだけ聞いてみるか?


「ルークと言う男のことを知っているか?」

「ルーク=マディアス。辺境伯マディアス公の嫡男。性格は真面目で忠義に厚い。狩猟を得意とし、狩った獲物を料理するのが趣味。牡丹鍋が好物。休日はよく城下の武器工房に行っている」

 すらすらと喋り出す座布団猫。語尾ににゃをつけ忘れているぞとも思ったが、猫の持っている情報量の多さに戸惑う。


 戸惑っているうちに猫はふてぶてしくにゃんにゃん鳴いて転がり出した。そこへがさがさとなぜか木々の中から桃色娘が音を立てて走ってくる。


「ちょ…!いるじゃない!呼んでよ!?」

「いや…あの猫はもっと痩せていなかったか?」

 葉っぱやらなんやらを付けて桃色娘は叫んだ。いったいどこを探していたのか。


「それで…猫さん?」

「にゃーん」

 桃色娘が猫に向き直り話しかけると、猫はにゃーんと鳴いた。む?喋らないのか?


「あなたお助け猫よね?ヒントを教えてくれる?」

「にゃにゃーん」

 もう一度桃色娘が話しかけるもにゃんとしか鳴かない。桃色娘がさらに色々と話しかけてみるも、猫は先程の様に喋ることはなかった。


「なんで?あなた喋れるでしょ??クッキー?クッキー食べさせられなかったからイベント失敗なの??でもお助けキャラの出会いイベント失敗とかあり得るの!?これもルークのせい!?そうなのね!?おのれぇルークめぇぇ!!」

 大声で喚いて拳を握り出す。内容は相変わらず訳がわからない。一人でずっと騒いでいて口を挟む隙もないため、先程は喋ったことを言う機もない。しかし猫にはもう一度話しかけてみれそうだ。


「おい、猫座布団」

「にゃーん」

 私が話しかけてもにゃんとしか鳴かなかった。どういうことだ?先程のはやはり幻聴か、もしくは桃色娘が言うようにルークの罠だったのだろうか。ならば危険か…いや、あえて誘いに乗せられてみるか?休日は城下の武器工房にいると言っていたな…。


「おい、桃色娘」

「なに…?何か思いついた…?」

 叫び地団駄を踏みすぎて、はぁはぁと肩で息をしている桃色娘に話しかける。


「休日は武器工房に行ってみるぞ。ルークがいるかもしれない」

「え?そんな情報誰から…?って言うか駄目よ!迂闊に好感度を上げて奴のルートにはいったら大変だもん!」

 るーと、とな。未来が決まってしまうということだろうか。しかもあまり良くない方向に。


「いや…待って。…そうだわ!私が近づかなければいいのよ!うん!閃いた!」

 何やら考え出したと思ったが、次の瞬間にはまた叫んでいた。ほんに童にしか見えない。そして次には閃きという程でもないことを言い出す。


「尾行するのよ!」

「…嫌な予感しかしないな、それは」

 却下だ、却下。先程失敗したばかりだろうに。


「私が一人で行ってみよう」

「えぇ?じゃあ私も途中まで一緒に行くわ!あなたまで洗脳されたら大変だもの!」

 良くわからぬが一応心配されているらしい。私は桃色娘の脳内の方が心配だが。


 まぁ特に異論はないため、次の休みに二人で城下町へ。そして私が単独で武器工房に行くことが決まった。ルークの目的が分からぬ以上、用心していかねばならぬな…。


「にゃーん」

 猫座布団は相変わらずびたびたと転がっていた。

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