乙女同盟
「そもそも、出会い方からしておかしかったのよ。わたし10歳以前の記憶がまぁ…あやふやなんだけども、本来だったらバーレリアの王宮でクロード様やガルシアと出会っていたはずなのよ。でも、花畑でいくら待っても現れなかった。ちょっと遠くで揉める声が聞こえたけど、そんなイベントはないはずだし…」
平民である桃色娘がなぜ王宮で出会うのか謎だが、まぁ黙って聞こう。
「で、初恋の君と再会っていうベタな展開が使えなくなったのはもう置いておくとしてもよ?スノウ国ではだいたい設定通りに時間が過ぎていって今年、晴れて王立学園に留学したの。…なのに!」
平民を留学させるスノウ国の企みが知りたいのだが、まだ黙っていよう。
「入学してみたら攻略キャラ…わたしの知る人たちが名前は同じなのに、みんな全然違う性格や姿だったのよ!なんなのあれ!?あんたの弟なんてイチオシだったはずなのに今は直視できないじゃない!」
ぐぐっと拳を握りながら叫ぶ桃色娘。握りすぎて今にも血が出そうである。
まぁ…ロティについては関わるものたちに申し訳ない気持ちはある。できればそのまま目を逸らし続けて欲しい。
「そんな男どもの中でもただ一人、わたしが見た設定…未来通りの人物が一人いたのよ。それがルーク=マディアス。彼がこの世界を壊している張本人よ。彼はイケメン…見目麗しい男性全てが憎かった。だから時間をかけてその内面を壊していったのよ。女子たちからモテなくなるように!」
意味が分からぬ…。ロティはまさしくだが、クロード様やガルシアも内面が壊れているとでも?まぁガルシアはやや脳みそが筋肉になってそうではあるが…。
「このままいくと大変だわ!結婚できない男たちが増えた結果少子化も避けられないし、奴はきっとあなたのことも狙ってくるはず!だって、美人の婚約者がいるリア充王子なんて許せるわけないんだもの!」
結婚は家同士のものなので内面はあまり関係ないのでは?と思い首を傾げた。そういえば子供のころから違和感を感じていたが、この世界ではお家存続のための子作りは義務ではないのだろうか。
「聖なる乙女たる私は、きっとこのために降臨したのよ。このルートではそうなるのよ!」
おっと、ようやく聖なる乙女の話が出てきたな。
「危機の内容は個別ルートごとによって違うけど、今回はルークに警戒した方がいいわ。奴のルートではスノウ国との戦争もあり得るから」
「待て、いきなり黙っていられない話に飛んだぞ」
これはさすがに黙って聞いてはいられない。そう思い手を桃色娘の眼前にかざして一度話を止めようとするも、桃色娘は止まらない。
「ルークは辺境伯家の息子でしょう?今は敵対していないとはいえ、もしもスノウ国が攻めてきたら真っ先に戦地に駆り出される人間だわ。そこで私は祖国とルークの間で板挟みになるのだけど、私は帰国要請に従わず、愛のために聖なる乙女として祖国に立ち向かうのよ!」
「…お主、よもやロティと同じ病ではあるまいな?」
正直こやつの妄想を聞くのも疲れてきた。もうロティと同じ心の成長期という結論で良いだろうか。
「厨二病扱いしないでくれる!?ルークのせいで設定はめちゃくちゃだけど、本当の話なんだってば!わたしはこの世界を守りたいの!だからあなたの協力が必要なのよ!」
ばんばんと人の机を叩く桃色娘。うーむ、よく分からぬが必死なのは伝わってくる。
「…ん?ところで先程の話ではお主、ルークのことを愛しているのか?」
「違うわよ!個別ルート…あくまで可能性の一つよ。わたしの知ってる未来はいくつかの可能性があるのよ。今は敵よ敵!」
愛憎渦巻くというやつであろうか?忍びにはよく分からぬが、こやつも複雑なのだな。
しかし協力、か。私は組んでいた腕の指先をとんとんと叩きつつ考えた。クロード様に害なすならば処分するとして、益になるならば利用するのもありだな。
「お主に嫌がらせをするなとのことだったが、それは良いとしてその他具体的にはどう協力をもとめているのだ?」
「ルークに警戒して!どうやってみんなのキャラを壊したのかは分からないけど、何かこう、三十歳まで清らかさを守り抜いたら使えるという怪しい魔術的なものを使うのかもしれないわ!」
魔術とはまたおかしなことを。そもそもルークは先輩とはいえ一つ年上なだけなのでは?よもや年齢を詐称しているのだろうか?
「あとは、そうね。出方を見て考えるわ。未知のルートに入ってるんだもの。慎重に進めないとどうなるかわからないわ」
ふむ。猪のようではあるが、少しは考えもするのだな。それに嘘をついている様子もない。ならばしばし泳がせてみるか。
「わかった。それではクロード様のご命令に反しない範囲でなら手を貸そう。その代わり、未来予知とやらができたならその都度話せ」
「ええ、キャラは崩壊してるけど、大筋は同じかもしれないもの!一緒にこの世界を守りましょう!」
ぐっ!と拳を握って私の眼前にかざす桃色娘。なんだかいまいち分からぬが、ここは乗せられておくか。私も拳を握り、それを桃色娘の拳に重ねた。
ーーこの同盟が、後にこの世界を大きく揺るがすことになるとはまだ知る由もなかった。




