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そして約束の話

 結局国王陛下のご判断は、危機がどういった形のものか現段階では分からないため、国内外への警戒強化と各種調査をするとのことだった。確かに危機とは呪いとやらの可能性もあれば、他国からの侵略の可能性もあり、非常に具体性のない言い回しである。

 しかしこの件により、クロード様は王立学園内での一定の裁量権を任された。怪しい者がいれば王太子の権限で如何様にも処分できるということだ。おそらく次期国王としての力量を試されているのだろう。そしてそのまま王立学園へととんぼ返りし、学園長に陛下よりの命を下された。勿論学園長に拒否権はない。その後クロード様がガルシアと寮に戻られたのを確認し、私も女子寮へと戻った。


 さて、思ったより早く戻れたため桃色娘との約束の戌の刻までまだ時間がある。一度部屋に戻り、同室のターナに話中はしばし席を外してもらうように頼むか…。と考えながら廊下を進んで寮の自室の前にくると、そこには桃色の頭が見えた。


「なんだ、約束の時刻までまだ一刻以上あるぞ。暇なのか?」

「なわけないでしょ!?弟の厨二病の影響か知らないけど、戌だか猫だかの刻って言われてもわからないから!あれからずっと待ってたのよ!」

 私の言葉にきゃんきゃんと吠える桃色娘。あれからずっと部屋の前にいたとな。こやつやはり暇なのではないか。それにしても15、6歳にもなって時刻も分からぬとは。


「ふむ、お主常識がないのだな」

「あんたに言われたくないわよ!」

 うるさい小娘だ。しかし態度が少し変わったか?以前はもう少し丁寧に話していたような気がするのだが。これが奴の素なのだろうか。


「まぁとりあえず中に入るといい。ターナは…いないようだな」

 部屋のドアをかちゃりと開けて室内を見回すが、同室のターナの姿はなかった。


「ターナさんならずっと戻ってないわよ。お友達の部屋にでも行ってるんじゃない?あの騒ぎについて話してるんでしょ」

「あの騒ぎ」

「選定の儀に決まってるでしょ!?私が!乙女に選ばれた!」

 あぁあれか。そういえば国の危機が何なのかばかり気にしていたが、乙女とは何をするものなのだろうか。


「まぁいいわ。とにかく強制イベントは進んだから、この後が問題なのよ」

 相変わらず何を言っているのだこやつは。自信満々に室内に入り、ドアを閉める桃色娘。そしてゆっくりと話し出した。


「あなたはもし今代の乙女が選ばれるなら、ずっと自分こそが相応しいと思っていた。そうでなければクロード様との婚約も聖なる乙女に取られてしまうかもしれない、と」

 そうだったのか。知らなかった。そもそも婚約は家同士の話だから私にはどうにもできないが、聖なる乙女とやらにはできるのだろうか。


「前作の相手を公式で決めちゃうなんて珍しいけど、メインヒーローが圧倒的人気だったからかな?とにかく先代の乙女はバーレリア王と結婚したのは知ってるでしょ?」

「前半何を言ってるかわからぬが…先代の乙女はクロード様の曽祖母であらせられるのであろう?」

 桃色娘はすとんと椅子に座りながら言った。人の椅子に勝手に座るとは態度のでかい奴よ。無論私は警戒を続けているため立ったままだ。


「そう。だからあなたは聖なる乙女に選ばれた私の足を引っ張るような嫌がらせを始めるのよ」

 さっぱりわからぬ。なぜ私がこやつめの妨害をせねばならぬのだ。…いや、まてよ。私に狙われるということは、だ。


「つまりお主は国やクロード様を害そうとしているのか?」

「そんなことしないわよ!…ルートによっては怪しいけど…」

 私の問いかけにすぐさま否定したが、ぽつりと言った言葉もきちんと聞こえたぞ。やはり怪しいのか。


「そもそも乙女とは何をするものなのかお主は知っているのか?国難を如何して救うのだ」

 真実を述べるとも限らぬが、とりあえず尋ねてみた。桃色娘は少し間を置きつつも答える。どうやら言葉を探しているようだ。


「ゲーム、って言っても伝わらないわよね。うーん、私には未来が分かるって言えば信じるかしら?」

「いや、信じぬが」

「少しは考えなさいよ!」

 吠える桃色娘だが、むしろなぜ己が信用されると思ったのかが疑問だ。ため息をつきながらも娘は続ける。


「選定の儀の話は本当だったでしょ?先に言っておいたからあの場で発狂しなかったんじゃないの?

「いや、そもそも発狂しないが」

 発狂する意味が分からぬ。それともあの玉にそんな危ない力でもあったというのだろうか。あとで教会に忍びこんで割っておくか。


「んー…自覚のないキャラって面倒ね…。とにかく私に嫌がらせをしていくと、あなたは破滅するのよ!」

 なんだこやつ怖いな…。これは何かの勧誘だったのだろうか。よく考えると教会も片棒を担いで王室に対しての何らかの陰謀を…

「宗教の勧誘とかじゃないわよ!?」

 こやつ、心を…?


「とにかく!私には未来を見る能力があるの!そこを前提として聞いてもらうわよ」

「よかろう。話してみよ」

 桃色娘をじっと見据える。長くなりそうだがとりあえずは黙って聞いてみたほうが良さそうだ。このままでは埒があかない。そう思い、口を閉し耳を傾けることにした。この後の話がさらに荒唐無稽で、その後の決断が大事なものであるとも知らずに…。



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