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選定の玉

 バーレリアでは数年に一度、神によって聖なる乙女が遣わされる。その数年という期間が100年なのかそれとも2、3年なのか。どのくらいの期間が開くのかは決まっていない。国に危機が迫ってくる時になると、自然と現れるのだという。前回遣わされたのはおよそ100年ほど前のことだ。聖なる乙女もしくは巫女と呼ばれるその存在は、突然異界より現れた黒髪黒眼の少女だったという。当時国を脅かしていた呪いを見事に解き、バーレリア国を救ったと言われている。


 …とまぁ、ここまでが誰もが授業で習う話である。正直胡散臭いし興味はない。前世の意識根深く残る私は、この国で祀っている神を信仰してもいないのだ。

 そもそも異界とはなんなのか、呪いとは具体的になんなのか、それらを残す文献はない。たかだか100年程前の話だというのに、だ。ならばそれは王室ないし教会によって隠されたと考えるのが自然だ。ともすれば身分のない女を正室にしたいがために、権力者が適当にでっち上げてきた称号かとも思っていた。以前クロード様が仰っていた黒髪黒眼の曽祖母というのが100年前の巫女なのだとすれば、時の国王が仕立て上げたのだろうなと。


 …が、今目の前で起きているこの現象はなんなのだろうか。


「おぉ…!この光は…!」

「まさに聖なる光…!」

 学園に派遣されてきた神官たちが光に群がる虫のように騒いでいる。その中心にいるのはあの桃色娘だった。


「そんな…マーガレットさんが聖なる乙女なの??」

「選定の玉が光ったんだ、間違いないだろう」

 辺りにいた生徒たちもざわざわと騒いでいる。いや、むしろ体育館中でどよめきが起きていた。


 今朝方、神からのお告げがあったと教会から神官たちが派遣されてきた。お告げによると、神はすでにこの王立学園に聖なる乙女を遣わしたのだというのだ。それを聞き慌てて神官たちは学園に押しかけた。そしてあれよあれよと言う間に全校生徒を体育館に集め、偉そうな神官が選定の玉とやらをかざした。その瞬間、玉が光り、指し示したのが桃色娘だった。そして桃色娘が玉に触ると水晶玉は更に光を増したのだ。


「でもマーガレットさんは他国の留学生よ?なぜ彼女が選ばれたの?」

「前回の巫女様も異国の方よ。あり得なくはないわ」

 ターナたちも驚きを隠せずにざわついているようだ。スノウ国は全て承知の上であの桃色娘を留学させたのだろうか?とすれば、必ず何らかの目的はあるはず。


 しかしそれにしても桃色娘の予言が本当だったとは…。世迷言かもと疑っていたが、少なくとも玉に選ばれたのは確からしい。ということは…だ。


「この国に危機が訪れている、ということだな」

「さすがクロード様。優れたご推察です」

 私の横にいたクロード様が、難しい顔で呟いた。乙女は国の危機に現れるのだという。であれば乙女の出現は、何らかの脅威が現れたと同義なのである。これが仕組まれた何かの陰謀だとしても、誰かの奸計が絡んでいるという事だ。捨て置くわけにはいかぬ。


「王宮に遣いを…、いや…私自ら向かう。急いで陛下に報告してご判断を仰がねば」

 すぐさま踵を返して体育館を出ようと足早に歩き出された。ガルシアもそのお背中に続いた。無論私もついて行こうと思ったが、ふと桃色娘の方を見やる。


「キリルシュカさん、後で、お約束の話があります」

「…わかった。戌の刻、寮の部屋で聞こう」

 頷き答え、クロード様を追った。早馬で向かえば学園から王宮までは半刻もかからない。学園の厩番に言って、すぐにクロード様の御馬を手配しよう。



「…え、待って。戌の刻?って何時だっけ??」

 マーガレットは理解できずにおろおろとしたが、辺りはざわめいていて問いに答える者はいなかったという。


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