図書館にての揃い踏み
桃色娘との約束まであと一日。
クロード様の護衛はガルシアに任せ、私は桃色娘の様子を伺っていた。はずなのに…。
「やぁ、マーガレットさん。元気かい?」
「はい、まぁおかげさまで」
なぜか今日はクロード様が桃色娘の近くにやたらとまとわりついていた。今は放課後の図書館である。護衛と監視を同時に行えるという点では良いのだが、クロード様は何をお考えなのだろうか。
「なぁクロード、なんで今日はやたらとこいつの周りをチョロチョロしてるんだ?」
さすがガルシア、まさかの直球で尋ねるとは。
「気づいたんだよ。最近マーガレットさんのいる場所からキリーの気配がするって」
「えっ…」
きらきらと曇りなき眼で仰るクロード様。常人には気づけぬように姿を消していたのだが、やはり毎回クロード様には気付かれていたのか。しかしそれならば何故私に直接目的を問われないのだろうか。いや、私の考えなど些末なことか。
「ほら、今もいるのが分かるんだ」
「えぇぇ…!?」
微笑みながら仰るクロード様に、桃色娘は顔を青くしながら辺りをきょろきょろと見回した。残念、その辺りではなく私は天井裏にいるぞ。
「あのなクロード!それだから危ない噂が立つんだぞ??少しは自重しような」
私の気配を察することもできぬくせに偉そうにいうなガルシアめが。こやつはまた今度鍛え直してやらねば。
「えぇと、あの、いつでもクロード様の脳な…いえ、お心の中にいるのではないですか?」
桃色娘がかたかたと小刻みに震えながら言う。王太子たるクロード様とお話するのは恐れ多いことだと今さら気づいたのだろうか。
「最近は何やら忙しいみたいで、あまり一緒の時間を取れなくてね。だからこうして無理にでも近くにきたんだ」
「か、会話ができない…!顔が無駄に良いのがまた危なさを増長させるわ…!」
ぶつぶつと失礼なことを呟く桃色娘。クロード様からの命あらばいつでも消してしまおうと、懐の暗器に手をかける。と、ふと廊下から足音が聞こえた。
がらっ
図書館のドアを開けて入ってきたのは辺境伯子息、ルークだった。その姿を見るや桃色娘の体がやや強ばるのがわかった。いや、もともとクロード様のご威光に気圧されてはいたが。
「おや、王太子殿下。ご機嫌麗しゅう」
クロード様に一礼しながらちらりと桃色娘の方を見やるルーク。
「この者が何か失礼なことをしませんでしたか?何せ礼儀があまりなっていないものでして…」
「いいえ、大丈夫ですよ。学園では誰もが平等だしね」
桃色娘の方を顎で示しながらルークは言う。それに対して軽く微笑みながらクロード様は答えられる。桃色娘はと言うと、少し悩んだそぶりを見せた後、前に出て言った。
「もう、ルークったら、いつまでもお兄ちゃんぶらないでよね!」
「ルーク先輩、だろ?そっちこそいつまでもおてんばで呆れるぜ」
2人はやはり旧知の間柄なのか。しかも随分と親しそうなやりとりだ。以前の話とは違う様子に困惑するな。
「2人はお知り合いなんですか?」
「ええ。子供の頃、親に連れられて行った教会でよく会っていまして。何せ領地が国境いなもので…って、殿下!自分に敬語なんて使わないで下さいよ!」
クロード様の丁寧なご様子に気付き慌てるルーク。それはまともな反応ではある。
「いや、学園では先輩にあたるわけだし…」
「それでも!こんなとこ父に見られたら自分が殺されてしまいます!」
マディアス辺境伯は忠義に厚いと聞く。ならば息子が王族に敬語や丁寧語を使われるなど、許しはしないのだろう。
「うーん…、それは困るね。じゃあ、楽に話させてもらうよ」
「ええ、ぜひ!」
ふむ。このルーク先輩とやらに今のところ怪しい点は見当たらぬが、本当に何かを企んでいるのだろうか。至って普通の反応に見えるのだが。桃色娘はいったい…と見やる。
「ためしにセリフ言ってみたら完全に原作通りの返し…。やっぱり怪しい…。なんで1人だけキャラ崩壊してないのよ…」
クロード様たちの会話を聞いているのかいないのか。ずっとぶつぶつと呟いている桃色娘こそが何かを企んでいるように見えるのだが…。これガルシアよ、怯えて引くな。
「おっと、図書館であまり騒ぐわけにもいかないですね。そろそろ司書から怒られそうだ。それでは、失礼いたします」
そう言ってルークは図書館の奥へと去っていった。手ぶらのようだったが、何か調べ物でもするのだろうか。その背中を桃色娘がすごい目で見ている。
「…ふぅ。それではイベントも終わったようなので私もこれで失礼します」
「イベント…?」
またよく分からぬ言葉を残して去る桃色娘を、クロード様がぼんやりと見送る。今の様子から察するに、桃色娘はここにルークがくることを最初から見通していたのだろうか?…やはり油断はできぬ。
「みんななんなんだ一体…」
一連の流れがまるで分からないガルシアはただ呆然とするのであった。




