辺境伯子息
ルーク=マディアス。辺境伯家の長男で、中等部に上がるまでは領地にて過ごしていたため、ずっと王都にいた私とはほぼ面識がない。マディアス家は国境を守護する家系のためか、バーレリアの盾と称されている。領地の性質上狩猟を得意とする者が多い。その嫡男たるルークもその例には漏れない。髪色は水色で瞳は藍色というこれまた珍妙な色だが、誰も気にしている様子はない。ちなみに母親はスノウ国から嫁いで来たらしい。桃色娘とは何がしかの因縁でもあるのだろうか?さらに辺境伯家は忠義に厚く、王家からの信任も厚い。それ故簡単に裏切るとは思えぬが、まぁ腹の底までは分からない。まさかと思われる人物が裏切るなど、乱世においてはよくあることだ。
「勝者!ルーク=マディアス!」
審判の声にきゃー!という女子たちの声がする。2、3年生の男子たちは現在合同で剣術の授業中だ。1年生はその見学。
「いいな〜!見学よりも闘いてぇなぁ」
最初は楽しそうに見ていたガルシアだったが、段々と体がうずいてきたのかその場で屈伸をして、じたばたし始めた。童か。
「完全にスチルのまんまだわ…やはり逆に怪しい…」
桃色娘はぶつぶつ言いながらルーク先輩とやらをみつめている。怪しいのはお主だ。一応約束したゆえ、こんなのを後2日は待たぬとならないのか。
クロード様はと言うと、何故か私の方をちらちらと見ている。何か仰りたいことがお有りなのだろうか?もじもじと乙女のようである。こちらから聞くべきか、それともそっとしておくべきか迷っていたら、意外なところから声がとんできた。
「クロード様、頑張って下さい!」
「今ですよ!」
ガルシアがよく一緒にいる友人たちだ。ひそひそ言っているつもりらしいが丸聞こえである。何だこの状況は。よく分からぬが私がこの数日お側を離れている間に、クロード様はご学友と随分打ち解けたようだ。これは喜ばしいことだ。
「あの、キリー?」
「はい」
ついに意を決したかのようにお声がけ下さる。なんだろうか。
「その、えーと、強い男は好き…かな?」
「はぁ。まぁ嫌いではありませぬが」
なんなんだ。本当にお考えがわからぬ。一体ここからどんな話を…?と思っていると、桃色娘に向かって何かが飛んでいく!
キィンッ…!!
懐から取り出した苦無を投げて弾く。ちなみに苦無はこの世界にはなかったので、特注品だ。
「きゃああ!!何何!?」
女子たちが一斉に騒ぎ始めた。皆状況がまだ理解出来てないようだが、試合中に打ち合って木剣が折れ、その破片が飛んできたところを私が弾いたというだけのことだ。私からはやや距離があったため、桃色娘の周りからは苦無がどこから飛んで来たのか分からなかったようだが。
「今の、キリーが防いだ?」
「左様にございます」
クロード様にはさすがに気づかれたようだ。ガルシアも防ごうと思っていたのか近くまで移動していた。私が弾かなくともこやつが防いだか。一応弟子として動いてはいるようだ。
「やっぱりイベントの肝心な部分が妨げられているわ…!」
桃色娘は何故かわなわなとしている。木剣にぶつかりたかったのか?やはり不審者はこやつではなかろうか。怪しい。
「ほいよ、師匠」
「む、すまない」
ガルシアがこちらに戻ってくるついでに私の苦無を手渡してくれた。中々便利な弟子だ。周りはまだざわざわとしていた。この分だと今回の授業は中止だろうな。しかしクロード様に危険が迫らなかったため構わぬが、木剣とはいえ危ないところではあった。もしや桃色娘は知りすぎたため何者かに消されようとしているのだろうか…。あと2日、方々に注意しながらすごさねば。




