誰が敵で味方なのか
キリー視点に戻ります
近頃桃色娘の様子がおかしい。いや、不審なのは元々なのだが、どうやらある人物の追跡をしているらしい。その人物とは、辺境伯子息のルーク。1学年上の男だ。私は話したことはないが、辺境伯の領地は桃色娘めの祖国であるスノウ国と地続きだ。これはどうもきな臭い。やはり何がしかを命じられている間者なのだろうか…。いや、だとしたらあまりにもお粗末な尾行の仕方だな。今も校舎の影に隠れて中庭をこっそり見ているつもりらしいが、不信者丸出しである。これはむしろ何かの罠なのか?…考えてもわからん。少し話しかけてみるか。
「おい、そこで何を…」
「キリルシュカさん、来るのは分かってました」
!?こいつ…隙だらけのようで私の気配を読んでいたのか??後ろから声をかける私に驚きもせずに振り向いただと?
「クロード様や弟さんに近づく私に苦言を呈しにきたんですよね?でもごめんなさい。今はそんなイベントをこなしている場合ではないんです」
「苦言…?かは分からぬが、いべんと、とは?」
確かに何が目的かを尋ねるつもりではあったが、こやつのこの落ち着いた様子はなんなのだ?昨日までとは別人のようだ。
「恋愛とかそんなの今はもうどうてもいいんです。詳しくは言えないけど、世界の命運がかかっているんです!」
な、なんだこの曇りなき眼は…!まるで全てを救わんとする仏のようではないか…!
「…その、世界の命運とやらにあの辺境伯子息が関係しているのか?」
「ええ、恐らく。彼によってあなたの婚約者であるクロード様も危険に晒されています」
「なっ…!?クロード様もだと!?」
それが本当なら放ってはおけぬ。だが、こやつの言うことを鵜呑みにするわけにもいかない。
「お主の言うことを証明するものはあるのか?そもそもお主は何者なのだ?」
私が尋ねると、桃色娘はぐっ…と口を引き結び、考える素振りを見せる。なんだ?今まであまり思慮深い人間には見えなかったが、今日はどうにも様子がおかしい。
「…ここではちょっと。非常にデリケートな話なので」
確かにここは人目につきやすい場所で、誰が聞いているとも限らない。迂闊で独り言の多い奴だと思っていたが、あれはまさかわざと聞かせていたのだろうか?だとすればこやつ、侮れぬ…。
すっ…と警戒し間合いをとる私を気にするようでもなく、桃色娘の目線は再び辺境伯子息へと向けられた。一体2人の関係性は何なのだろうか。
「とりあえず今私が怪しいと思っているのは辺境伯子息のルーク…先輩です。一見怪しくないけれど、それが怪しいんです」
何を言っているんだこやつは。
「分からない…って顔してますよね。そうですね…。このままだと私を信用できないのは分かります。でも
あなたにシナリオ通りに動かれていたままではルーク先輩の思う壺なんです」
「私がすでに、あやつの掌で踊らされていた…とでも?」
信じがたい話だが、こやつの目は真剣だ。
「ルーク先輩の…というか、本来はもっと大きな存在に作られた世界のはずでした。でも、ルーク先輩はそれを壊そうとしている」
「あやつ、よもやバーレリア王家に対し下剋上を!?」
「げこ…?いや、あのえーっと…、テロリストと言いますか…リア充爆発しろというか…」
言葉を探しているようだが、よくわからない。しかしどうやら不穏なことには違いないようだ。
「とにかく、これだけは確認させてください。…平成、令和。…この言葉に聞き覚えは?」
「へいせい?れいわ?」
何だ?なんの暗号だ?元号のようにも聞こえるが、そんなものは聞き覚えがない。
「…ないならいいんです。少なくともあなたは私の敵ではない」
こんなことも分からないようなら敵にもならぬということか?一体こやつは…。
「3日後、神殿から使いが来ます。そこで神聖力のテストをするはずです。そのテストで私は聖なる乙女としての力に目覚めるはず。そこが一つのターニングポイントとなります」
何を言っているのだこやつは?よもや己には先読みの力があるとでもいいたいのか?若干ロティと話している時のような感覚に陥るが、ロティよりは話が具体的ではある。微々たる差だが。
「残念ながらあなたは聖なる乙女ではない。だけど決して取り乱したりしないで下さい。私はあなたからクロード様を略奪する気はありません。そこだけは今からでもお約束いたします」
クロード様を略奪?どこかに拐かしたりはしないという意味か?
「私はこの世界を守るため、できればあなたを味方にしたい。でもお互いにまだ信用しきれない」
「…なるほど。それで予言をしてみせたわけか。それがらもし当たったならお主を信用しろと?」
己の手札を一枚きって見せて、こちらの反応を伺っているのか。
「しかしなぜ私にそれを?」
「私には味方が少なすぎるんです。しかも誰が信用できるかもわからない。でもあなたなら…そう思っています」
何が理由かはわからないが、私を信用したいと思っているらしい。先程の質問ですでに何かを確かめられていたのだろうか?ふむ…どうするか。
「世界を救うということは、クロード様、ひいてはこの国に害をなすつもりはないのだな?」
「ええ。むしろクロード様を元に戻…いいえ、救いたいと思っています」
やはりこのままだと御身が何者かに狙われているということか…。
「3日後、だな。わかった。ひとまず話はそれからだ」
「ありがとう。それまではこの話、誰にも言わないでもらえますか?」
ふむ、誰が信用できるかわからないと言っていたな。しかし…。
「必要とあればクロード様にはお話する。主たるあのお方を裏切るようなことは決してできぬ」
「そう…あなたは一途なキャラだものね」
「きゃら?」
俯きながらもいちいちよく分からぬことを言うのは、まだこちらを試しているのだろうか。
「どうしてもと言うなら仕方ありません。けどクロード様をこれ以上危険に晒さないためにも、クロード様本人にはなるべくお話しない方がよいでしょう」
「ふむ…まぁよかろう。クロード様のためというなら、ひとまずは3日待とう。だがもしものことがあれば
、ただではおかぬぞ」
いざとなれば消す、そういう意味合いを込めて言ったが桃色娘は全くひるまずにこちらに向かって微笑んだ。
「それで結構です。では…また3日後にお話しましょう」
そう言って桃色娘はその場を去って行った。その背中を見送った後、私は再び影に隠れた。そして奴が監視していた辺境伯子息、ルーク先輩とやらを見るが何を考えているのかは分からなかった。ただの青年のように見えるが奴は一体何者なのだろうか…。




