王太子の疑念
クロード視点です
「最近キリーがあまりそばにいない…」
この昼休みもしばし離れますと言って、どこかに行ってしまった。そのため寂しくガルシアやその友人たちと食堂にきている。
「お前も大きくなったし、ひとり立ちの頃だと思ってるんじゃないか?」
「ガルシア…なんだか有り得そうだけど、キリーは僕の母じゃなく婚約者だ」
がっくりと項垂れつつも答える。いやでも、キリーなら言いそうだな。あと三年足らずで成人だが、キリーは僕のことをどう思っているのだろう…。
「あの…婚約者って実在するんですか?」
マイド令息がおずおずと尋ねてくる。え。待って、まさかまだ変な噂を信じられているのか僕は?
「ばかお前!殿下に失礼だろう!」
あわてて横にいたトルク令息が止めるが、むしろ直接聞いてくれてよかった。噂を否定するチャンスだ!
「キリーはちゃんと実在するよ。授業中ガルシアの隣の席に座っているだろう?そう、私ではなくガルシアの隣に」
なぜなんだ。中等部までは恐らくキリーが手を回して、僕の隣を陣取ってくれていたのに。
「ガルシアの隣って、あの凄い美人の…」
「そう言えば昔王太子様とエイル公爵家のご令嬢がご婚約されたと聞いたような…?」
「え、でも幻術なんじゃ…?」
辺りにいたガルシアの友人たちが口々に言い出す。噂はどんどん独り歩きしているらしい。あまり人が寄ってこないと思ったら、僕はもしかしてかなり危ない奴だと思われていたのか??
「だから幻術じゃないって言ってるだろー?なんで信じないんだよ」
「いやだってガルシアってちょっと脳筋なとこあるし…」
「幻術にめっちゃかかりやすそうだもんな」
ガルシアは友達は多いが、いまいち信用はないらしい。いくら否定しても噂が消えない理由はそこか。というか、僕はガルシアを洗脳して婚約者の幻術を見せていたと思われていたのか!?
「キリルシュカ=エイル。陛下に認められた私の正式な婚約者だよ」
だから決して邪な目で見るなよ。キリーがいくら美人で可愛くて面白くて魅力的でも、僕の婚約者だからな。
「実在の人物…?じゃあ殿下はそんなに危険な方ではないのか…?」
こらこらマイド君、聞こえているぞ。
「そうそう!クロードはただの友達の少ないさびしんぼだから仲良くしてやってくれよ」
「ガルシア…以前見せてくれた気遣いはどうしたんだ…。…まぁいいや。幻術なんて使わないし使えないから、仲良くしてくれると嬉しい」
ばんばんと背中を叩くガルシアに、だから脳筋と言われるんだと思いつつも令息たちに向かって言った。
「は、はい!こちらこそ!」
令息たちが若干怯えているのは僕の王太子という身分のせいか、噂を信じていた名残かはわからないが頷いてはくれた。少しづつでも友達が増えそうで嬉しい。
と、ふと食堂の入り口からざわざわと騒ぎ声がしているのに気づいた。
「ん?なんだ?入り口か?」
ガルシアも気づいたようで入り口の方を見やる。と、そこから現れたあの長い金髪頭は…
「兄上!」
僕の兄、ナーシス兄上だった。身体が弱いためあまり学園に通ってはいなかったが、今日は出席していたのか。一応挨拶をしようと立ち上がり近づくが…。
「ん?誰かと思ったらクロードか。美しい私を見にきたのか?」
「ええ、まぁ。お元気そうで何よりです」
相変わらずの様子に苦笑しつつも、元気そうな様子に安心する。
「お前も元気そうで良かったな。残念ながら美しさでは私に敵わないが、あまり気に病むなよ。私が美しすぎるのがいけないのだ」
「あ、はい。そうですね」
幼い頃に適当におだて過ぎたのがよくなかったのか、今や完全に揺るぎない自己肯定の存在になってしまった。周りの視線が痛い。ってこれもしかして王家は危ない奴しかいないと思われてないか!?
「あの、兄上…」
「それではさらばだ!はーはっはっは…ぅげほげほっ…」
無理に高笑いして咳き込みながら行ってしまった。付き人たちも慣れた様子で対応している。ちなみに体調面を考慮して、兄上には特例として学園内でも付き人が許されている。それにしても話の途中だったんだけどなぁ…。やはり兄上はいまや僕のことなど全く興味が無さそうだ。
「あばばばばばば」
ちらりと視界の端で留学生のマーガレットさんが泡を吹いていたような気がしたが、気のせいだろう。
「相変わらず楽しそうだよなー、ナーシス殿下は」
席に戻るとガルシアが素直な感想を述べた。うん、確かに楽しそうではある。人間ふっきったもの勝ちか。
「なんか…クロード様も大変ですね」
トルク令息から同情的な目で見られるが、その目は逆につらい…。まぁあの様子の兄上を担ぎ上げる者もいないし、後継者争いが発生しないから良いのだこれで。うん…いいんだ。と、ここではっと気付いた。
「いや、それよりキリーの気配がする」
「えぇぇ!?やはり脳内に??」
思わず言った言葉にドン引きされた。しまった…。
「お前な〜、そういうとこだぞ!?って師匠いんのか??」
キリーの弟子のくせに気配も読めないとは、やはり脳筋なんだなガルシアめ。
「…うん、でもまぁ何かを見張ったり探ったりしているならそっとしておこう。気にはなるけど、邪魔するわけにはいかない」
気にはなるけど。ものすごく気にはなるから後で必ず聞くけど。でも、もし他に気になる人ができたとかだったら?聞きたくないな。どうしよう…。
キリーは一体何をしているのだろうか…。




