王太子様はお年頃
あれから桃色娘の動向を見張っていたが、間者らしい動きは特に見せなかった。猫は各種病等を確認するため、ひとまずはエルンスト先生預かりとなった。そこから学園長の許可が降りれば、寮内は無理だが学園内でなら飼えるだろうとのことだ。桃色娘はしばらく食い下がってはいたが、実験台にはしないという言質をとるまでで最後は諦めたようだ。私は賄賂でも贈れば良いのになぁと思いつつもその様子を黙って見守っていた。
ちなみに桃色娘はエルンスト先生と一度別れた後に、隙を見て取り返そうとしていたのかしばらく先生の後をつけていた。が、エルンスト先生を追いかけそのまま校舎内に入ろうとした所、桃色娘は校門の前にいた門番に止められ中には入れなかった。今日は入学式のみなので生徒はもう校舎内には入れない時間らしい。なぜそんなにあの猫にこだわるのかは謎だ。
仕方なく桃色娘はその後寮内へと戻ったが、寮監から夕方以降の無断外出を怒られていた。ちなみに私はすでに寮監に袖の下を渡してあるので門限などはない。まぁ正面から入らねば良い話だが、念には念を入れてだ。そして寝静まった頃にも様子を見に行ったが、腹を出して爆睡していた。隙だらけか。
とまぁそれが昨日の話で、一夜明けた今日、桃色娘は再びクロード様の前へと現れた。
「あ、王太子様!同じクラスだったんですね!…良かった、私留学したばかりでまだ友達もいないから不安だったんです」
朝、教室に入ったとたんに話しかけてきた桃色娘。その口振りだとまるでクロード様の友人のようだな。
「わかるよ。友達ってどうやったらつくれるんだろう?」
桃色娘の言葉に深く頷かれるクロード様。ご友人が少ないことを昨日からまだ気にされていたのか。桃色娘はその深刻そうなお顔に軽く引いている。
「え、えーと…」
「そもそも友達の基準ってなんなんだ?ガルシアとは友達になろうと言ってなったが、どうも周りを見ていたらそうとも限らない気がする。挨拶を交わしたら友達か?それとも一緒に食事をしたらか?もしくはこっ…恋バナをしたりする間柄のことだろうか?」
お悩みは深いのか、つらつらと疑問を口に出される。なぜか最後は軽く頬を染めながら。
「そういうところじゃないっすかねぇ…」
ポツリと桃色娘がこぼす。
「え?何か言ったかい?」
「い、いいえ!なーんにも!」
慌てて首を振る桃色娘。はて、一瞬別人のようになったが気のせいか?それにしてもこの娘、教室の出入り口で話しかけてきおって。
「そんなところにいてはクロード様が中に入れなかろう。邪魔だ」
しっしっと手で追い払う。まぁクロード様以外も教室に入れずに困るのだが。
「あっ、キリルシュカさん⁉︎私ったら気づかなくてごめんなさい!」
いやずっとクロード様の横にいたのだが。クロード様の仰せによりきちんと姿が見えるようにしているが、桃色娘には見えなんだか。
「いいから早う退け。席の確認もせねばならぬ」
今日は授業初日だ。まずは黒板に書いてある席に座らねばならぬのだが…
「あ!それでしたらクロード様は私のお隣ですよ!ほらほら、こちらにどうぞ!」
言いながらクロード様のお手を握ろうとしてきたので瞬時に間に入って桃色娘の手を掴む。
「え?あれ…?」
「いきなり触るのは不敬ぞ」
全く呆れた小娘じゃ。一拍置いてクロード様ではなく私の手を握っていることに気づいて不思議がっている。反射神経が鈍いのか?
「き、キリー。君になら僕の手もその…いや、あの…なんでもない」
ん?何やらクロード様がそわそわしていらっしゃるが、なんだ?
「あー!もう!いいから早く中に入れお前ら!」
ぐいぐいと我らの背を押すのはクロード様の後ろにいたガルシアだ。珍しくずっと黙って見ていたらしい。やかましいこやつにしては耐えたものだ。
そしてそのまま席に着くが、何やら周りからやたらと視線を感じる。
(え…なんかものすごい美人がいるんだけど…)
(あれって噂の留学生か?)
(いや、それはいま王太子様の隣に座った子だろ?)
(あれ?そういえば王太子様の隣っていつも空席じゃなかったか?)
(いつもお隣にいるっていう設定の脳内婚約者とお話していたわよね?)
(あ!たまに王太子様の幻術で見せられていた婚約者の方に似てるんだわ!)
ひそひそと話す声が聞こえる。中等部の頃クロード様のお隣は大抵私の席だったのだが、基本姿を消していたため周りには見えていなかったようだ。もちろんクロード様は幻術など用いてはいない。どうやら情報が混乱しているようだ。
お噂を心配したガルシアの提案により、高等部からはクロード様のご見聞を広げ、ご友人を作るのを目標とすることになった。クロード様の仰せもあるが、そのためにも私もきちんと姿を見せるように言われたのだ。心配だが仕方がない。可愛い子には旅をさせよだな。
「お前って姿見せたら結構目立つのな」
何気に隣の席だったガルシアが荷物を置いて座りながら言う。
「やはりこの珍妙な髪色のせいかのう」
せめてガルシアのように赤茶くらいの髪色ならばマシだったのだが。
「うぅ、キリー…」
捨てられた幼な子のような不安げな視線をクロード様から感じるが、今はそっとしておこう。可愛い子には旅をさせよなのだ。大事なことなので2回言う。
その横で桃色娘がため息をつきながら、何かのノートに×を書いているようだが謎である。




