桃色娘の謎
ターナたちと茶を飲み終え、私は1人でそのまま玄関から建物の外に出た。そろそろ日も傾いてくる頃だ。寮の周りの確認から行うか。
あの桃色娘…確か名はマーガレットと名乗っていたか。珍妙な髪色揃いのこの国でも中々見ない桃色の髪色をしている。以前どこかであの髪色を見たような気もするが、他国ではよくある色なのだろうか。
スノウ国からの留学生だと言うが、なぜ平民がわざわざ他国の、それも貴族の子女ばかりが通う王立学園に留学してきたのだろう?仮にスノウ国からの間者だとすれば、何かしらの目的があるはずだ。そして平民だというのに入学が出来たということは、それを手引きしたものがこの学園上層部にいる可能性が高い。とりあえずは教師から探った方がよいか…
そんなことを考えながら歩いていると、ふと足元に小さな獣が現れた。
にゃぁん…
…茶色い猫だ。首輪はつけていないが誰かの飼い猫か?しかしそもそも寮内では猫を飼って良いのだったろうか?いや、薄汚れているしただの野良猫か。
しゃがみこんで見ていると、私の腰に下げている小さな包みにすり寄ってきた。この中には兵糧丸が入っている。こやつめ腹がすいているのだろうか。
「どれ、情けじゃ」
包みから兵糧丸を一つ取り出し、猫の前に置いた。するとやはり腹を空かせていたのか夢中になってがつがつと食べ出した。と、何者かが走ってくる気配がするな…
「わたしのお助けキャラー!!」
ズザーっと地面を滑って音を立てながら現れたのは、例の桃色娘だった。いつもながら勢いのある登場の仕方だ。このやかましさは忍びでは到底なかろうな。
「えー!誰かがもう餌あげちゃってるー!?」
気配に思わず身を隠したため、桃色娘はこちらには気づいていない。
「クッキー持ってるのよ?食べない?ねえねえ!」
猫の鼻先にクッキーを寄せるも、ふぃと背かれる。先程の兵糧丸は栄養満点だからな。十分に満たされたのであろう。
しかしこやつここに猫がいることを知っていたみたいであるし、目論見が気になるな。猫に向かって騒いでる姿はただのとんまにしか見えぬが、確認してみるか…。
私は桃色娘の背後にある木から音を立てずに降りて、声をかけた。
「これはそなたの猫か?」
「うわっ!?はい!そうです!いや、まだ違うけど、これからそうなんです!」
やはり何を言っているのか分からないが、背後からいきなり現れたはずの私の言葉に一応即答した。私がここにくることを知っていた風でもある。
「これから?寮内で飼うのか?この薄汚い猫を」
「薄汚いなんて…!きちんと洗ってあげれば大丈夫です!」
「ここは貴族のご令嬢方が住まう場所ぞ。万一病気でも持ち込まれては困る」
だから飼うなら診療所なりなんなり連れて行ってきちんとしてもらわねば。
「そんな…見殺しにしろっていうんですか??ひどい!」
いや、最後まで人の話を聞け。こやつなんだかわからぬが盛り上がってきておるな。しかしまぁ餌をやった私がいうのもなんだがそれも致し方なしとも思う。
「死ぬとしたら弱いからだ。自然の掟であろうな」
それを助けたいのならばきちんとせい。
む。また誰かの気配。これは…
「そんなところでどうしました?」
「エルンスト先生」
現れたのは薬草学のエルンスト先生だ。見回りにきたのか薬草を探しにきたのか。細身の長身の男で、これまた珍妙な薄い緑がかった髪色をしている。まだ20代であることも含め女子からは見た目の人気は高いが…。
「先生!あの、私この猫を助けたいんです!」
救いの手とでも思ったのか、すかさず桃色娘がエルンスト先生に訴える。ふむ、判断力と行動力はあるな。
「ぬこたん?わぁー!ぬこたんだー!」
「え」
美形と称されるエルンスト先生から発される言葉に固まる桃色娘。うむ、初めて会う者はみんな似たような反応を見せるのだよな。
「デュフフ…洗って綺麗綺麗しまちょうねー。綺麗になったらいろんな実験に使うのもいいなぁ」
すでにさまざまな妄想が広がっているのか、エルンスト先生は猫を掲げてにたにたしている。
「じ、実験…!?」
「エルンスト先生は薬草学の教師でな。ここ2、3年ほどは医療学の先生と共に実験に凝っているらしい」
中等部の頃に私が持ち込んでいたとある薬草を没収してからだそうだが、いま余計な詳細は省こう。
「こんなの別人じゃない…!」
がくがくと震える桃色娘。もしや以前のエルンスト先生を知っているのか?やはり何かを探りにきた間者なのだろうか。
「それより良いのか?猫が先生に連れていかれるぞ」
「はっ…!」
娘が呆然としている間にエルンスト先生は嬉々としながらこの場を去ってゆく。このままだとあの猫はどうなることやら。
「ちょっ…待ってくださーい!」
桃色娘が先生を追いかけていく姿を確認すると、私は気付かれぬように尾行することにした。
さて…あやつの目論見はなんなのか。しばし見張ってみるか。
よろしかったら評価等お願いいたします!創作の励みといたします。




